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たまに書きたくなる留美さんのお話。まだ世界が色づいていたころの品だって、残ってるよねって思って。



12.四角い箱
 
 
 
「ねぇ、こんな物見つけたんだけど」
 人の家に何の連絡も無く押し掛けてきた上に勝手に家探しをしていた『上位種』はそう言って、それをこちらに差し出して見せた。
 一体何なのだと思いながらそちらに何気なく視線を向けた留美だったが、しかし、それが何なのかを認めた瞬間……思わず、小さく息を呑んだ。
 それは、直方体の小さな小箱だった。
 この家に在るものにしては珍しい、売り払ったところで大した価値は付けられないだろう、見るからに粗末な品。過度な装飾はおろか、塗装すらされていない、手芸品としては手抜きとしか思えない箱。明らかに王家の主たる自分には相応しくない物。
 ずっとずっと昔に、見ることさえ無くなりどこかへ消えた思い出。
 正直、もう処分されたと思っていたのに。
「これを……どこで見つけたのですか?」
 差し出されていた物を取りあげ尋ねると、リジェネは肩を竦めた。
「そんな事、僕が覚えてるわけ無いでしょ」
「……そう、ですか」
 その返事に口惜しさを覚え、軽く俯く。そして、そんな自分の感情に少しばかり驚いた。何で、これがあった場所を知りたいと追っているのだろう。何で、これがあった場所を知ることが出来ずに残念だと思っているのだろう。
 こんな思い出など、捨てしまったのではなかったか。
 ……どうしよう。不快だ。
 理解できない自身の感情に機嫌を傾けていると、彼は不思議そうな表情を浮かべた。
「どうかしたの?何か嫌なことでもあった?」
「えぇ……まぁ、そうですわね」
「それって、その箱のせい?」
「……その通りですわ」
 頷いて、箱のふたを開ける。
 そうして流れ始めた音に目を閉じると、音に混じって彼の言葉が耳に届いた。
「へぇ……それ、オルゴールなんだ。で、それって君にとっては何なの?」
「何……と申されても困りますわ。こんな物、」
 昔々、まだ世界が色づいていた頃に兄からもらった、あの頃の宝物。
 そして、世界から色を失われた今でも、愛おしく思ってしまう様な、これは。
「単なる思い出の品ですもの」








留美にだって、こういうものがあるんじゃないかなって思って。
なんだかんだで結局、お兄さんの事は嫌いきれて無かったんじゃないかと思うし。
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