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最近の私の状況=この話における元親に近い、です。
きっとこんな経験が誰にだってあると思いたい。



 前々から、難しいとは思っていた。
 思ってはいたが、今までは一応、分からないなりに理解していたのだ。
 けれども本日。
「駄目だ全然分からねぇ……」
 元親は、机に突っ伏し敗北を味わっていた。
 今までは辛うじて分かっていた、分かっていなくても分かっているふりを出来たはずの授業だったのに、気が付けば今日の授業のせいで何もかもが瓦解してしまった気がする。
 どうしてくれるんだと先ほどまで自分たちに向かって話していた教師に恨みの念を送りつつ、どうしようもないと思うままに盛大なため息を吐く。
「何だあの呪文は……」
「呪文な。まぁ、貴様のごとき馬鹿には呪文かもしれぬが、あれはれっきとした言葉なのだ。理解できぬ貴様が悪い」
「……わざわざ嫌味言いに来たのかよテメェはよぉ」
 ぐるん、と九十度ほど頭を回転させれば、良く見た顔……の来ている制服が見えた。ちなみに顔は見えない。辛うじて視界の端に顎が映っている程度である。……随分と近い所に立っているらしい。
 だからといって話をするのにその距離も、顔が見えない事も特に障害にはなりそうになかったので、そのまま会話を続けることにする。
「で、天下の生徒会長様はあの呪文は理解出来たって?流石だねぇ」
「それほどでもない。先ほどの教師の言葉のほぼ九割を解したと言うだけの事ぞ」
「へっ、そりゃ一パーセントも理解できなかった俺に対するあてつけか?」
「単なる事実だが」
「……今度徹底的に叩きのめす」
「出来るものならやるが良い」
 ぐ、と握り拳を作りながら呟いた宣言も、彼からすると恐れるに値するものでもないらしい。ふん、と軽くこちらを嘲笑って、元就は腕を組む。見えないが、きっと顔には余裕が有り余るほどに張り付いているのだろう。
 どうやったらコイツにひと泡もふた泡も吹かせられるんだろうかと思いながら、何となく先ほどの彼の言葉を反芻して……首を傾げた。
「ってーか……九割?九割ってお前言ったよな」
「ほぼ九割と言ったのだが」
「じゃあ九割だろ。……何で九割だ?」
「……というと?」
 尋ねてくる彼に、だってよ、と前置いてから言う。
「基本的にテメェ、こういう時は『我に分からぬことなどあるわけがなかろう』とか言って、全部分かったんだって俺のこと馬鹿にすんだろ」
「……ふむ、」
 その言葉に、彼の腕組が少し崩れた。口元に片手をやって考え込んでいるらしい。
 そんな彼を眺めつつ、この体勢で話し続けるのにも疲れてきたし、そろそろ体を起こそうかと考えていた元親だったのだが、それを実行する前に再び彼の声が降ってきたので思考及び行動は一時中断された。
「成程、貴様、酔狂で我の傍にいつづけておるわけではないのだな」
「いや、俺は離れたいのにテメェがパシリが欲しいって俺を手元に置きたがるんだろうが」
「我の声真似が想像以上に上手い」
「人の話を聞け!あとそっちに突っ込む前に内容にツッコミ入れろ!」
 いやまぁ、確かにあの声真似は少し似てたかなぁと自分でも思ったけども。
 叫びと共に結局体を起こしてしまった元親が、そして見たのは鬱陶しげな元就の顔だった。どうやら自分が大声を出したのがお気に召さなかったらしい。
 腕組みを完全に解き両手で両耳をふさいでいた彼は、その手を下ろして再び腕を組んだ。
「しかし貴様の言うことも分からぬでもない……一兆歩譲った所で頷きたくは無いのでな、ここは一京歩ほど譲って頷く事にしておこう」
「そうかいそうかい。無限大とか言われなくて良かったぜ。……んで?九割の真相は?」
「簡単な事」
 ふ、と笑って元就は言った。
「授業を真面目に聞いていなかったのだから、理解など出来るわけがなかろう」
「……は?」
「要するに、聞き流しておったのだ。つまらなかったのでな。それでも九割程度は聞き取れた所、貴様と我の頭脳の出来の優劣がハッキリとしていると思わぬか?」
 唖然とする元親を見下ろして笑う元就は、どこからどう見てもご満悦な様子。
 そんなに自分を貶せるのが嬉しいのかと何となく他人事のように思うこちらを見下ろした後、元就は体の向きを変えた。自分の席に戻るらしい。
「ではな、馬鹿鬼。次は一割程度は理解できるようにしておくが良い」
 などと言い残して離れる彼の背を見送って、再び額を机を付ける。
「結局自慢話されただけじゃねぇか、俺……」
 毎度のこととはいえ、あんまり過ぎではなかろうか。
 何であんな奴の知り合いやってるんだろうと憂鬱になりながら、とりあえず元親は次の授業の準備をすることにした。
 





とはいえ、元就も多分、何もしてないわけじゃないと思います。目的のためなら努力は惜しまないだろうし。
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