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木曜日の、一方その頃、な夜のお話です。
「お疲れさまでーす」
「……どうも」
響く声に一礼して、羽島幽平……平和島幽はドラマのセットの纏まりの外へと出た。
今日の収録はこれで終了だ。そして、これから明々後日の昼までは仕事がない。つまり、明日は完全に予定無く空いている、久々の休みだった。
珍しい事もある物だと、そんなスケジュールを聞いた時は思った物だ。一日ならともかく、二日と半日程度の休みなんて最近では一回もなかった。それは自分がこの仕事において高い評価をされていることの表れだったから、特に気にした事は無かったのだけれど。
だから正直、この状況は少し困る。いつもよりも長く休み期間を貰えたのだから家にこもりっぱなしと言うのも何だかもったいない。だからといって、何をするかと考えても良いアイディアが浮かんでくることもなく。
しばらく考えているうちにスタジオの外に出る時間になって、スタジオどころか建物の外に出た所でふっと、一人の顔が浮かんだ。
そういえば、しばらく会っていない気がする。電話だって全然してない。自分もだけれど彼だって時間にとらわれない仕事をしているから、どうしたって電話をかけにくくなってしまうのである。自分が仕事中に電話を取り出すなんて論外だし、少しだけ空いた時間に電話をかけて、それがあちらの仕事中でも困る。自分の『何となく』で折角上手く言っている彼の仕事の邪魔をするのは、流石に遠慮したい。
というわけで、最近全く兄との接点がないのだった。
社会に出た兄弟なんてまぁ、そんな風になるのが普通だと思うけれど、やはりたまには会いたいと思う。
少し考えてから、幽はポケットの中にある一つのカギを取り出した。
兄の住んでいる所の、合鍵。しばしば訪れる自分と兄の休みの時間が合わなかった時、外で待たせてしまうのは何だか悪いと、兄が渡してくれた物である。
明日は、兄の家に遊びに行ってみよう。
そう決めて、幽は合鍵を再びポケットの中に仕舞い、代わりと言わんばかりに別のポケットから携帯電話を取り出した。
アドレス帳を呼び出し、一つの名前を選択する。
携帯電話を耳に当て、コール音を聞き、それが途切れた時、幽は口を開いた。
「夜分すみません。そしてお久しぶりです、田中さん。少し、聞きたい事があるんですが」
というわけで、そろそろ幽もやってきますよ。
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