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多分、時系列的には最終回のラストよりも少し前的な。イノベとの戦いが終わって、まだアレが旅してない状況です。
14.健康サンダル
「買い忘れは無いよね?」
「あぁ、無いはずだ」
買いそろえた物品の入った袋を抱え直しながら、両手のふさがった状態で刹那は頷いた。無いはず、というか、あったら困る、というのが今の自分の心情に最も近い返事だろうと思いながら。
どうやら、そんな思いが表情に出ていたらしい。同じく買い物袋で両手を塞がれているアレルヤが、大変だよねと言わんばかりに苦笑を浮かべた。……全くもってその通りである。
少なくない人数から頼まれているお使いとはいえ、いくらなんでもこれは多すぎた。
少しばかり表情に険を浮かべ、呟く。
「もう少し加減という物を知ってほしいんだが……」
「……あはは」
引き攣った笑みを浮かべ、アレルヤが視線を明後日の方向に逸らした。おそらく、今彼が思い浮かべているのは彼の中のもう一人の彼の顔だったりするのだろう。自分が買いに行くのだから良いだろうと、やけにたくさんのリクエストを投げつけてきた彼は、いざ地上に降り立ってみれば眠ったまま起きてこないということで。
自分が買いに行く……つまり買った荷物を持つ、と言ってはいなかったかと呆れ、全て丸投げにされてしまったアレルヤに同情し……ハレルヤらしい行動に何となく懐かしさを覚えたのだが、それはさておいて。
実は、問題はハレルヤからのリクエストでは無い。
たしかに量は多かったがそれだけだった彼の注文は、案外買う方からしても楽と言えば楽だった。落としても壊れない物、というのはそれだけで安心できる。
一番の大問題は別にあった。
その第問題たちを、そして全て持っているのは自分なのだが。
踏み出す足に合わせて、ちゃぷ、ちゃぷ、と聞こえてくる容器の中の液体がガラスの壁にぶつかり液体の中へ戻って行く音を聞きながら、ため息を吐く。
だからどうして、こんなにこんな物が必要なんだろうか。
いつもに増して多く頼まれた酒のボトルたちは、そんな事など知らないと言わんばかりに音を鳴らし続ける。
ちゃぷ、ちゃぷ、と。
……事故を装って落として全部割ってしまっても良いだろうか。
「刹那、もしかして疲れた?代わろうか?」
と、不意にかけられた心配げな声に、はたと我に返る。
「あ……いや、大丈夫だ」
「本当?何かボーっとしてたけど」
「本当に大丈夫だ。気にするな」
重ねて尋ねかけてくるアレルヤに、首を振りながら答え、内心で安堵を抱く。
危なかった。もしかしたら、彼が声をかけてくれなかったら、本当に持っている荷物を全部地面に落としていたかもしれない。仮にそうしてしまっていたら……トレミーに帰った時、自分はただでは済まされなかっただろう。
いやはや全く。
彼には感謝しなくては。
まぁ、とはいえ、突然「ありがとう」などと言われても彼が戸惑うだけだろうから、今度どこかで埋め合わせの様な事をすればいいだろう。もちろん、彼がおかしいと思わない程度にさり気無く。
「そういえば、刹那ってスメラギさんから頼まれたの全部持ってるんだっけ……?やっぱりちょっと分けてもらった方がいいかな。割れ物注意な物ばかりだし、疲れるでしょ?」
「そうでもない。それに、アレルヤも持ってるだろう」
「スメラギさんからのリクエスト品?……確かに持ってるけど、お酒じゃなくて健康サンダルだよ?軽いし落としても壊れないし、君よりずっと気楽なんだけど」
「それでも、だ」
推測でしかないが、今回はそちらの方が彼女にとってはメインの品だろうから。
心の中でそう呟きながら、酒より先に注文してきたそれに少し驚いた事を思い出す。そんな自分を見て、彼女は、照れくさげに笑ったのだ。地上にいる友人に、贈り物をしようと思って、と言って。
それでどうしてそのチョイスなのかと疑問に思ったが、友人相手ならばそれも良いかもしれないとも思った。冗談にしろ本気にしろ、友人だというのならば笑って受け入れてくれるのだろうから。
多分、その友人と言うのが今回、頼まれた酒がやけに多い理由に絡んでいるのではないだろうか。その友人関係で何か、嬉しい事があったからお祝いにとか、そんな事を彼女は思っているのかもしれない。……だからといって、あまりに多い注文が許されるわけではないのだけれども。
そんな風に自分が考えていると知る由もなく、彼はむぅと唸りながら、諦めの表情を浮かべた。
「……仕方が無いなぁ……そこまで言うなら任せるけど。落としたらダメだよ?」
「……っ!?」
「あれ?どうかした?図星を指されたみたいな表情浮かべて」
「……いや、何でも無い」
健康サンダルといえば、やっぱりビリー・カタギリでしょうと。
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