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ホラーゲームをしてて、ちょっとホラーちっくなものを書きたいと思って……その結果、病みました。ホラーちっくではなくヤンデレちっくです。駄目駄目だ…。
浅井さんとお市さんのちっちゃいバージョンを想像しながら読んでください。
あと、現代パロっぽいです。



06:思い出の恋
 
 
 
 白い天井。白いシーツ。白い布団。白い枕。白い服。白い壁。白いカーテン。白い床。白いドア。白いゴミ箱。白い引き出し。白いパイプ椅子。白い花瓶。白い花。白いタオル。白い時計。白い部屋。白しか無い部屋。白以外無い部屋。白だけの世界。
 
 白だらけの、世界。
 
 そんな場所に、自分は寝かされていたらしい。
 ぱちぱちと瞬きをして、体を起こしたまま片手で顔の半分を覆う。
 瞼の裏の暗闇から脱出したかと思ったら、突然これだ。闇から光。あまりに急な世界の変化に、頭と心が上手くついて行かない。ずきずきと痛む頭を持て余しながら、それでもどうにか現状を把握し受け止めようと、思考だけは止めないようにする。
 現状把握に於いて、まず問題となるのはここがどこなのかだが……それは、どうにか推測できる。恐らく病院だろう。そう思う理由はこの部屋の中の病的な白さの中に存在している度の過ぎた清潔感と、曖昧に霞掛かっているここで目覚める前の自分の記憶。
 自分は、確か、頭を殴られた。
 自分を殴ったのは、数周間前に小学校で出会った一人の少女。
 美しい笑みを浮かべたその少女は、笑みを浮かべたまま、手に持っていたやけにデコボコしている鞄を勢いよく振りまわした。学校では大人しかった彼女のその行動に唖然とした自分は反応を遅らせてしまい、迫りくる避けることもできず、頭を殴りつけられたのである。その時の、躊躇いも無く、憎悪も怒りも見せることなく、笑顔のままに嬉しそうに幸せそうに、思いきり鞄を自分の頭部めがけて振りおろした彼女の姿は、今でも鮮明な記憶となって記憶の中に焼けついていた。……そして、その後から今までの記憶がふつりと途切れている。どうやら、自分は彼女の一撃に気絶したらしい。
 その後目覚めて白い部屋の中、というのだから、どう考えたってここは病院以外の何物でもないだろう。
 きっと、そんな自分を通りかかった誰かが見つけてくれたのだ。そうして自分は病院に運ばれたのではないだろうか。その過程の中に、あの少女が介入する余地は無いはずだ。何せ彼女は自分を殴って気を失わせた張本人であり、自分を害した加害者であり、そんな存在が自分を助けるべく行動する恩人に成り得るワケが無いのだから。
 だから、大丈夫。
 ……しかし、考えて見れば見る程、どうしてそんな事をされたのかが全く分からない。ただ、彼女は好意からその凶行に走ったのだという事だけには、何故だか確証が持てた。むしろ、その前提条件を疑う事が出来なかった。少女のあの笑みの中には邪気という物が全く無かったから、かもしれない。
 だが、それが怖い。
 相手を好いているが故に相手を害するというその少女が恐くて、怖い。
 自分は、自分と同い年の少女に恐怖を覚えているのだ。
 情けないこと……とは思わない。そんな事は、とてもではないが思えない。そんな事を言える人は、知らないのだ。わけの分からない物に晒される事に対する忌避感という物を。
 けれども、ここには恐怖なんてものは無い。
 そう結論付け、安堵の息を吐く。
 そして。
 
「起き、ましたか?」
 
 白いドアが開いて、白い廊下が見えた。
 けれども、白い廊下と自分の間に、白以外の色彩が存在していた。
 それは確かに白かった。白い肌、白い服、白い靴。白いものを身に着けていた。白い鞄もあった。だが髪は艶やかに黒く、唇は妙に真っ赤で、瞳は深淵の様に深い闇色。
 そして、彼女は笑っていた。
 笑っていて、鞄を持っていた。
 やけに重そうなデコボコしているその鞄に、見覚えがあった。
 背筋を、冷たいものが駆けて行く。
 そんな自分に構う事無く、少女は部屋の中に入り込んでドアを閉めた。かちゃ、という音がなったから、鍵も閉められたのかもしれない。自分が、逃げられないようにするためだろうか。だとしたら、それは全く意味の無いことだった。じわじわと寄ってくる恐怖のせいなのか、足先から頭の天辺まで、自分の思い通りに動かす事が出来そうな場所なんて一か所も無かったのだから。
 震えだしそうな自分の手を握り、少女は顔を挙げる。
 やはり、彼女は笑っている。
「良かった、です」
 花が綻ぶような。控えめだけれども明るい。そんな形容が相応しいであろうその笑みに、ひ、と息を呑む。
 間違いが無かった。
 今、自分が感じているのは、恐怖だ。
「起きなかったらどうしようって、思ってたんです。だから、本当に良かった……です」
 起きなかったら、何も伝えられないから。
 そう言って、少女は笑みを浮かべたまま身を乗り出してきた。
 顔が近づくが、それから逃げようと思えない。
 動けない自分に、少女は表情を変えないままに言う。
「起きてくれた貴方に、私の思いを伝えます」
 
「十年も二十年も前から、昔から好きでした」
 
「思い出に出来ないくらいの恋をしてました」
 
「そして今も、大好きなんです。恋をしています」
 
「だから、私から離れないでください。恋を実らせて下さい」
 
 
「一生、私の傍にいてください」
 
 
 
「そのためなら私、どんな努力でもしますから」
 
 
 
 その言葉に、不意に悟る。
 彼女は、自分を殺してでも自分を傍に置いておくのだろう。
 気付いてしまったその事実に戦慄し、気付く。逃げられないのは今だけでは無い。これからずっと、きっと自分は彼女から逃げられない。
 そんな確信を持ってしまった自分にできたのは、呆然と彼女を見返す事だけだった。
 
 
 
 そして、最後まで少女の笑みは美しいままだった。












ちょっとでも怖いと思っていただけたら嬉しいのですけれど、どうだろうなぁ……一応、怖い話を目指した事は目指したんですが。
何にせよ、まだまだ修行が足りないですね……。
とりあえず浅井夫婦様方ごめんなさい。07で部隊裏話する予定なので許してください。
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