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貂蝉さんと惇のお話。なんか、最初に会話させたかったテーマとはすごく逸れて言ったんだけども……まぁ、いいか、ということで。
「……そういえば、」
と。
貂蝉は、湯呑を卓上に置きながら首を傾げた。
「私は何でここにいるんだったか?」
「呂布を回収に来たんだろう、確か」
応じたのは夏候惇である。
彼も随分と気楽な様子で、自分と同じように湯呑を持って茶菓子をつまんでいる。その顔に、そして態度に……何度も何度も戦場で相まみえた相手に対する警戒心、と言う物は全く見受けられない。
……まぁ、それはこちらも同じことなのだが。
緩み切った気に内心で苦笑しつつ、ちらりと窓の方を見る。
空には適度に雲があり、日差しは遮られる事無く大地に降り注いでいる。残念ながらここからでは木々や花々などと言ったものは見る事が出来ないが、きっとここではないどこかで覆い茂り咲き誇っているだろう。そう、思わせるくらいに、外の風景は清々しい。
それは所謂、平和の光景、というものだった。
負傷した兵が倒れているわけでもなく、返り血を浴びた生存者がいるわけでもなく、高々と武器を掲げ上げる武将がいるわけでもなく、命のやり取りが行なわれているわけでもなく、積まれた死者が山になっているわけでもない。そんな光景を眺め、息を吐く。
平和である事。それは大変結構なことだ。素晴らしいとも思う。掛け替えのない物だとも理解している。そう感じられるくらいの普通さは、流石に未だ持ち合わせている。だから息を吐くのだ。
あぁ、もう本当に。
「こんな日くらい、自重出来ないものかな……」
戦慄の暴将と呼ばれる彼にとって、戦場とは世界のすべてであり、戦うのは息をするのと同じ事だとは分かっている。けれども、だとしても、度というものはあるのだ。
そして、こんな日にまで戦いを求めて人の居城まで押し掛けるというのは、間違いなく度を越し過ぎているだろう。
……そう。そうなのだ。
今日この日、戦場が無くて暇で暇でしょうがなかったらしい呂布は、あろうことか曹操の城に強襲をかけたのである。その事実を自分が知ったのは、朝起きて呂布からの『曹操の所に行ってくる』という書き置きを見つけたからなのだが……そこはさておき。
いくらなんでも人様の家に、何の理由もなく突撃までして戦うというのは迷惑過ぎるだろうと、呂布を止めるべく急いで貂蝉は呂布の後を追ったのだ、が。
夏候惇と茶を飲んでいる図からわかる様に、辿りついた時には既に手遅れだったわけだ。
故に、この一見平和そうに見える窓に切り取られた光景の外側のどこかでは、戦慄の暴将と紅蓮の覇将軍の、三璃紗の明日とか領地問題とか暗殺だとかいったものとは一切関係ない戦いが繰り広げられているのである。
こんなもの……困った話でしかない。
「……お前でもそんな事を言うのか」
額に手を当て再度息を吐くと、真正面から少し驚いた様な声が聞こえた。
それに、ふ、と笑って返し、口を開く。
「まぁ、な。これでも私は常識は弁えているつもりだから」
「やったらマズイことくらい分かる、と?」
「そういうことだ」
「ならば出来ればこんな事態になる前に抑えて欲しい物だがな」
やれやれ、と言わんばかりの表情に、視線を逸らす。
少なくともその点だけは、間違いなくあちらの言う通りだから。
「……それは悪かったと思っている。だが、言い訳をさせてもらうとだな、一体どうやって寝ている間に外に出て言った奴を止めれば良いんだ?」
「……気配を察して起きる事は出来なかったのか?」
「それは流石に無茶が過ぎると思うんだが……あ、いや、そうでもないか。高順が、起きれていた。直ぐに殴り倒されたらしいけども」
「……何でまたそんな事が起こるんだ」
「出て行くのを止められると思ったらしいぞ。……実際、それはその通りなんだがな」
だが、普通に考えて、それはそうなるだろう。
こんな何も無い日にわざわざ戦うことなんて無かろうし、人様の家に押しかけるなんて迷惑なことこの上ない。
その辺り、呂布はどう思っているのだろう。分かっているのだろうか。……ま、分かっていても、自分のやりたい事を優先させてしまいそうな感じだけれど。
「ともかくそういうわけなんだ。悪かったな。今後はもう少し気を付ける」
「……お前も苦労してんだな」
「曹操を主としているんだ、お前だって苦労してるんだろう?」
そう返すと、彼は一度口を閉ざした。
それから。
「……全くだな」
「あぁ。全くだ」
互いに顔を見合わせ、肩を竦め合った。
互いに苦労は絶えないでしょうと言う事で。まぁ、苦労のベクトルが違うかもなのだけれども。
呂布は休日だろうとなんだろうと、来たいときに来るよね間違いなく!
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