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 天玉町一家でケーキのお話。
尚香と曹操様。


 


 クリスマスといえばケーキである。
 頑張れば手作りだって出来てしまうそれではあるのだけれど、この家ではクリスマスに手作りケーキが出てきた試しは無い。ケーキ自体は普段よりも豪華な夕食の後、ちゃんとテーブルの上に現れはするが、いつだってそれは一か月前にケーキ屋で予約したものだ。
 それは別に嫌ではないし、文句を言う事でもない。
 のだけれど、やはり、手作りケーキという存在に対する憧れは消えないものである。
 はぁ、と息を吐いて、尚香はテーブルに突っ伏した。
「……何でうちは手作りケーキと縁がないのかしら」
「料理ができる面子が全員、イブだろうと部活に忙しくて家にいないからだろう」
 返って来た声に、体を起こす。
 そこには、テーブルを挟んだ向こう側の椅子に座り、広げたノートに何かを書き込んでいる曹操の姿がある。直ぐ傍にレシートがいくつかあるから、この家の財布管理の全てを任されている彼のこと、家計簿でも付けているのかもしれない。だとしたらなんというか、マメな話である。
 それはさておき。
 彼の言葉に、尚香はむぅと頬を膨らませた。
「何よ、料理ができる面子が全員いないって。私だって料理ぐらいできるわよ」
「できる、と主張したいのなら、まずは炒飯ぐらい作れるようになってはどうだ」
「この間作ったじゃない!」
「殆ど焦げていただろう、あれは」
「……………………やっぱり焦げてたら駄目?」
「少しならともかく、殆どはまず間違いなく駄目だな」
「だよね……」
 二度目のため息を吐いて、がくりと肩を落とす。
 そんな自分をちらりと見た後、彼は腕を組んだ。既にノートは閉じられていて、レシートも綺麗にまとめられている。作業は終わった、ということなのだろう。
「それで、突然手作りケーキがどうだと言い出したのは何故だ?」
「いや、そういえば私たちの家で手作りのクリスマスケーキが出てきたことが無いなぁって思ったのよ。別にそれが嫌ってわけじゃないんだけれど、やっぱり少し手作りには憧れててね」
「言い分は分からんでもないが、クリスマスケーキばかりはどうしようもないぞ。この日にお前たちの予定が空いていてケーキが作れるか、と、一か月前から分かれば別だが」
「……やっぱりそうなるかー」
 言って、尚香は三度目のため息を吐いた。
 
 今のところ、手作りが食べたいならクリスマス以外で作るしかないようである。
 ……作れれば、の話なのだけれど。








書きながら、曹操様と家計簿って似合うような似合わないような、っていう妙な気持になっておりました。
でも、家の財布のひもとか握ってそうな気がしましてですね。


というわけで、ちょっと短めケーキのお話でした。
多分この一家の中だと料理できるの策兄と孫権ぐらいのものだと思うのですよ。劉備は教えてもらったら出来る感じで、でも握り飯だけは誰よりも上手に握れるのだろうなと。

 

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