[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
74
二人で走って、辿り着いたのは少しだけ大きな木の下。といっても大きさの違いは若干で、それほど周りの木々との差はない。
「ここまで来たら大丈夫……とは、言えないね…」
「……だな」
相変わらず姿を変えたままのアレルヤが腰を下ろしたので、刹那もそれにならう。ずっと走っているのにも、そろそろ疲れた頃合いだ。
木の幹にもたれかかると、涼やかな風が吹いてきた。
それをここちよく思いながら瞳を閉じる。
「刹那、眠ったらダメだよ?」
「分かってい……アレルヤ、何かしたか?」
「あ、分かった?」
驚きの色が含まれている声を聞きながら、ゆっくりと瞳を開く。
目を閉じて視覚を封じていた分、第六感がいつもよりも働くようになっていたようだ。それに元々、自分にはそういう物に対する力があるようだし。
そう。刹那は何もしていなくても、何らかの特殊な力が発動したら分かる……いや、感じるという方が正しいだろうか…とにかく、気づくことができるのだ。物心ついたころからずっと。
理由はハッキリとは。ただ、これではないだろうか……という心当たりが無いわけでもなく、したがって、焦ってどうこうしようなどとは思っていなかった。もしも合っていたとしてもこれは『体質』である以上、手の施しようはないのだから。
普段は邪魔としか思えないその『体質』だが、今回はそれが役に立った……のだろう。でなければ、どうやら『力』を使って奪われていたらしい記憶を、人間である自分が取り戻すことはできなかっただろう。いくら、当時のことを思い出すような状況にいたとしても。それくらいで思い出せるような、生半可な掛け方をアレルヤはしないに違いない。
「何をしたんだ?」
「結界……みたいなもの、かな。僕らを中心に、半径五メートル以内なら安全圏だよ、一応ね」
曰く。
その結界とやらの内部にいるものは、特殊な『力』での索敵には引っかからないらしい。『力』を使って入ってくることも不可能。術を掛けた本人にすら外にいたらそれはできないというから、徹底している。
肉眼でも中を見ることは出来ず、ぱっと見てもじっくり見ても、そこに映るのは誰もいない森の姿。始めから内部にいる誰かが許可をしなければ、本当の様子を見ることはできないのだという。
「一体、何種類使えるんだ…」
「魔法のこと?」
呟くと、彼は困ったように微笑んだ。
どう説明しようかと、悩んでいるような笑みに、刹那は思わず口を開いていた。
「別に、教えて欲しいワケじゃない」
「そう……?」
「そうだ」
気にならないわけはないけれど。
それで彼を困らせるのは嫌だった。