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……知っていますか?
朦朧とする頭で、ただ、そう考えた。
問いかけようと開いた口は、しかし、頬を撲たれたせいで空気しか漏れなかった。
言葉を形成する前に、妨害されてしまった。
その後も何度も殴られ、足に力が入らなくなって、壁にそってズルリと崩れ落ちるころに、ようやく、その人はいなくなった。
広い何もない部屋に残ったのは、一人。
床に倒れたままでいると、ガシャン、という音が耳に届いた。
……また、だ。
窓のないこの部屋だ。扉さえ閉められてしまったら、自分の力だけではどうしようもない。開けてもらえるまで、ずっとここにいるだけだ。
この様子だと、明日の朝まではこの部屋に一人だけ、だろう。
一人が寂しくないわけではない。だけれど、もう……慣れてしまった。
一日に何回も殴られるのも、陰湿な虐待にあうのも、こうやって取り残されるのも。
もう、慣れた。
この仕打ちは仕方がないものだと、そう思う。
そう、仕方がないのだ。生き物は、得体の知れない物を極端に恐れる。
彼らの手にあまってしまうらしい自分は、間違いなく『ソレ』だろう。
多分、普通だったらすでに、心が大変なことになっているのではないだろうか。壊れて崩れて無くなって。
だというのに自分は、なかなか良く持っていると、そういう自覚はある。
別に、自分だけの力で、だとは思っていない。
これは偏に、自分の周りにいる、他の人ビトのお陰だろう。
知らないということもあるかもしれない。だけれど、彼らの『普通』の対応は、自分に安らぎを与えた。
それに、知っている人たち。そもそも知り得る人ビトが少ない……というか仲間内には二人しかいないのだが、そんな中の彼らは、やっぱり『普通』に接してくれる。
それだけでもありがたいのに、彼らは「これくらいしか……」と、謝ってくれるのだ。
想いは十分すぎるほど、だった。
だから、これ以上望んではいけない。身に余る願いは己を滅ぼし、周りの人ビトも巻き込んで根こそぎ奪っていく。全てを。
そして、あの人たちに止めて欲しいだなんて、そんなことを考えてはいけないのだ。
自分は彼らの所有物なのだから、口ごたえも。
あぁ……それを彼らは『違う』と話してくれる。『お前はお前、他人の物じゃ無い』と。
でも、やっぱり自分はあの人たちの物。
ずっと昔からそう、教えられてきた。
所有物である自分は、あの人たちに逆らってはいけない。と。
所有物である自分は、あの人たちを傷つけてはいけない。と。
恐らくそれは、自分のことを恐れての教えだったのだろう。こうやって刷り込むように教え込んでいたら、きっと大丈夫だと。
けれど……あの人たちは、何か忘れていないだろうか?
誰もいない部屋の中で、小さく、唇を動かした。
貴方たちは……知っていますか?
貴方たちが人形と思っているモノは、意思を持っているのですよ?
やりすぎて、いつか寝首をかかれないように気をつけて。
力が弱くても、『力』があるのだから。
……それは、とある過去の記憶。