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『いいこと、教えてあげようか?』
(は?いいこと?)
『うん。まぁ、いいことかどうかは微妙かもしれないけど』
くすり、という笑い声が頭の中で響く。
聞いて、走りながら少しだけため息を着きたい気分になった。こういう他の誰かがいるような状況では、こんな風に『話し』かけられるのは困る。間違えて返答を口に出してしまったら変なヒト決定だ。
それくらい、彼だって分かっているだろうに……。
なのに『話し』かけてくるのは、何か伝えるべき事があるからだろうが。
というか、そうでなければタダではおかない。
(で?何だよ)
『気配探ってみたけど、狩人はほとんど全滅してるみたい』
(………マジでか)
それは確かに『いいこと』だ。敵が減ったと言うことだから。
しかし、では一体、何者がそれを行ったのかというのが問題になる。
言いたいことを明確に思い浮かべるだけで相手に全てが伝わることを、楽だと思い、不便だと思いながら、問いを頭の中でハッキリとした形にした。
(誰がやったんだよ)
『ん……様子からすると、多分、トリニティの皆じゃないかなって』
(アイツらが?都の狩人とは一応、接点無いよな…ってことは、通りすがりにってか?)
『かもね』
呆れ半分、苦笑半分のその思考に触れ、こちらが笑いたくなった。
それをしたかもしれないメンバーの一人が、自分の後ろを走って着いてきているというのは少し、思うところがあるわけだ。
よくも言ったな…と恨みがましく思うと、ゴメンね…彼女には言わないでね、という返事が返ってきた。
…そう、こういう時が不便だ。何となく思っただけでも、相手には伝わってしまう。
(ま、それはいいけどよ……いいことか分かんねぇって何だよ)
『狩人が傭兵の行動をセーブしていたと思うんだ。だから、ここまで来ても大人しかった』
(止めるヤツがいなくなったってことか?ンなの、全員潰せば問題はねぇ)
『それはそうだけど……』
曖昧な思念に、おや、と目を見張る。もちろんこれは比喩で、本当にはやっていないけれども。そんなことをして、後ろの二人に見とがめられたら嫌だ。
何を珍しく思ったかというと、それは彼の言葉にだった。
いつもならば敵にすら慈悲を掛けるような、十分すぎるというかむしろ邪魔なくらいの優しさを持つ彼が、まさか『潰す』という言葉に賛同するとは。
どうしたのかと考え、一つの可能性に至る。
(お前、まさかたぁ思うが……)
『な……何?僕は別に、変なこととか一つも……』
少し訊いただけでこれだった。
相変わらず語らないことは得意なくせに、嘘をつくのは下手だと呆れながら、ハレルヤは立ち止まった。後ろからの困惑したような呼びかけは無視。
(使ったんだな)
『…………うん』
(そうかい…何に使ったかは知らねぇが……ま、やっちまったもんは、仕方ねぇか……)
これ以上は、出来る限り使うなよ……と言えば、分かった、と返された。
が、大丈夫だろうか……と心配するのは、決して自分が心配性だとか、そういうわけでは無い。彼の『大丈夫』は総じて『大丈夫ではない』のだから。