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未だに部屋で倒れているヨハンを前に、さて、どうしようかとティエリアは考えていた。これがハレルヤだったら蹴って、起こして、それで終わりに出来るのだが……残念ながら、相手は彼ではない。
普通に起こすにしても、これまでのことをどう話せばいいものか。全て『夢です』なんて言って、信じるほど相手もバカではないだろう。なにせ、あの弟妹の保護者役だ。しっかりしていないと思う方が無理がある。
そう、忘れてくれていることが一番。あれほど見事に金槌攻撃は決まったのだ。そうである可能性もゼロでは無い。多分。
しかしまぁ、そんなご都合主義が通用するとも思えないので、考えからは除外しても構わないだろう。
しばらく考えて後、結局、普通に起こすことにした。何かを訊かれたら、強引にでもいいから誤魔化す。嘘を吐いて、それが通じる相手かというのは甚だ疑問ではあるが、やるしかないというのも事実だ。
何というか……面倒なこと。
やはり、ここまでイレギュラーを増やしたのは、こちらの負担からして失敗だったのだろうか。こちらが期待した一応の成果は、出ていないわけでもないようだが。
先ほど、刹那にバレてしまったという旨を伝える思念が送られて来た。昔のこともあるから、仕方ないことだと。
仕方があろうと無かろうと、変化は起きたのだ。
そういえば……昔のこと、ことあの事件は、自分たちの中でも結構な問題になった。
思わず本名を話してしまったと彼から聞いて、どうしようと尋ねられ、ティエリアは記憶の操作を提案した。それが最も適切だと思ったから。
……が、ハレルヤは始末すればいい、などと言い出したのだ。
その後は大変だった……。
止めるアレルヤとティエリアを振り切って行こうとしたハレルヤを止めたのは、意外……ではないかもしれないが、裂け目を通って丁度やって来た、ソーマだった。
一目で状況を理解した彼女は、裂け目からフライパンを取り出して、彼の顔面めがけてそれを叩きつけた。
彼女の唐突な攻撃を喰らったハレルヤが気絶したまましばらく起きず、アレルヤが涙目になっていたことはよくよく覚えている。下手したら暴走でもしそうなくらいに、彼は慌てていた。焦っていたともいう。
幸い、危惧した状態にはならなかったが。
と、足下でもぞりと動く何かを目にとめて、あぁ、と本来の目的を思い出す。
ヨハンを起こしに来たのに、いつの間にか昔のことを思い返していた。
これは失態だったな、と反省しながら、ティエリアはトリニティの長男の傍らにしゃがみ込んだ。
軽く揺すって、言う。
聞いてもらう気はないから、小声で。
「起きた方が良い、ヨハン・トリニティ。どうやら君の弟妹は、大変なことに巻き込まれてしまったようだからな。特に危険なのは……ミハエル・トリニティの方か?『あの場所』に行ったことをハレルヤに知られる前に、あるいは何かが起きる前に、早急に保護することをオススメする」