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「そういえば、君に頼まれていた代物が手に入ったんだ」
「……!本当か!?」
「もちろんさ。はい、これ」
手渡されたのは一冊の黒い本。ドーナツの入った箱、それが入れられていた袋の中に一緒に入れていたらしい。そんなどうでも良いような土産と一緒に入れるなど不用心な……と思うが、こちらは持ってきてもらった側である。文句は言わず、素直に受け取った方がいいだろう。それが礼儀というものだ。
それでもやはり、思ってはしまうのだが…言わなくても、もしかしたら気持ちは伝わっているかもしれない。
一旦立ち止まり、受け取りながらも感謝する、と呟けば、カタギリはクスリと微笑んだ。相変わらずと思われたのかも知れないし、もう少しハッキリと感情を示せばいいと呆れられたのかも知れない。どちらでも構わなかった。こんなことはいつもの事だから、わざわざ直そうとも考えられないし、そのくらいは彼だって分かっている。
「ティエリア、それは何ですか?」
「参考文献だな」
「参考……?」
「あぁ。魔族に関する参考文献だ」
魔族に……その言葉を聞いたからだろう、ソーマの背筋がピンと伸びたのが分かった。彼女は魔族であり、同時に魔族のことを知りたいと願っている探求者でもある。この本の内容に惹かれても無理はなかった。
見れば、ロックオンも変わった様子ではないものの、どこか気にしている風だった。ちらりと視線をこちらに向けている。ここまで深く自分たちに関わったという理由が彼にもあるので、これも当然の反応と言えるだろう。
ティエリアは瞳を閉じて、本の黒い厚い表紙に触れた。サイズは普通の本と同様で、鍵が付いているタイプ。見たところ、ページは少なくはない。著者の名前は記されていないようだ。題名もまた然りで、この本が何なのかは内容を見なければ分からないようになっている。それも、この本を開くことが出来たらの話なのだが。
「魔族は、人間の突然変異だ。それは変わらない事実…ではロックオン、一つ質問しよう。何故、魔族が誕生したのだと思う?」
「え?自然発生したんじゃないのか?」
「自然発生は月代の方だ」
魔族は突然変異。それに抵抗できうる、対になる存在が月代であり、それはバランスを保つために世界自らが作り出した存在である。だからこそ自然発生。裏を返せば……魔族は世界に意思があったとして、しかしその意思に反して、あるいは関わらずに生まれてしまった種族なのだ。だからこそ『突然変異』と呼ばれるのだが。
では、世界に望まれずして生まれた魔族、それはどうして現れることとなったのか?
答えは簡単である、望まれたからだ。
「人間と異端は、始めから存在していた。両者の力の差は歴然としているな?人間の方が、遙かに異端に劣っている。ならば人間が、異端に抵抗できるよう望んでもおかしくは無い」
「……なるほど…人間が望んで、異端に対抗できる力を得ようとしたのか」
「願いは、意思は、思いは、時として世界を動かす」
だから魔族の血は、人間の血に弱い。魔族はいわば『人間が願ったからこそ存在する』種族である。人間がいてこその魔族であり、まだまだ幼い子供が親に勝てないという事実と同様の意味合いを持つ。人間の血が魔族の血に変貌するという点を見ると、酷く矛盾している気もするのだが。進化した結果、進化前より強くなり、弱くなると言うところは。
「結果、魔族が生まれて月代が生まれ、強大な力を前に庇護者、つまり魔王が必要となったわけだな。だが残念なことに、今、一応は魔王と称されるであろう彼らは不安定だ」
「あー、だよなぁ……」
「ですね……」
「まだ……そんなに不安定なのかい?」
「あぁ、本当に不安定だ。片方は力を使おうとしないから良いのだが、片方は力を使う」
納得したように頷くロックオンとソーマに同意して、首をかしげるカタギリを見る。
本当にそうなのだ。ハレルヤの方だって、『力』を頻繁に使い出せばアレルヤのように不安定な状況におちることはあるだろう。
だからこそ、少しでも多くの知識を得、それの解決策を探すのがティエリアの役目なのだ。