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黒い本を持ったティエリア、少々疲れ気味に見えるソーマ、少々よりは僅かに疲れ具合が高く見えるロックオン……そして、おそらくドーナッツが入っているのであろう袋を持ったカタギリを目に映し、刹那は溜息を吐きたくなった。
カタギリが来たと言うことは、つまりグラハムも来たと言うことである。あの、グラハムが……その事実だけで、刹那は絶望的な気分にたたき落とされた。先ほどから何となく分かっていたことだが、こうもハッキリと目の前に事実を突きつけられると、さらに悲しさは募るものである。彼らがこの場所に属する者である以上は、仕方のない事態ではあるが。出来れば今でも少ない来る頻度を、もっと減らして欲しい。
「まぁ無理だろうがな……」
「…?」
「こちらの話だ…」
不思議そうな顔をしてこちらを見た沙慈に、軽く手を振って答える。こればかりは、彼らの気分によるので自分の出る幕はない。というかむしろ、自分という存在によってグラハムがここに来たがる事が増えている節があるので、本当に手に負えない。
今度こそ本当に溜息を吐き、額を机に当てる。何で気に入られたのだろうと、過去の自分とグラハムのセンスを呪って、そういえば沙慈は…と顔だけをくるんと彼の方に向けた。より正確に言えば、沙慈とルイスの方に。
「お前たちはどうするんだ?」
「え?どうするって……」
「故郷には戻らないのか?家族が心配しているだろう」
言えた義理ではないな…と思いながら言う。自分だって、故郷から離れてどれほどの時間が経ったのかという状態。こちらに来てから一度も、便りさえも送ったことは無かった。やはり立場上、誘拐された場合は居場所をなるべく知られない方が良かったからだ。
そんな刹那の思考は知らず、沙慈はうーん、と苦笑しながらルイスを見た。
ルイスも困ったように肩をすくめている。
「ルイスがこんな状態じゃね…心配かけるだけだし、治るまではこっちに置いてもらおうかなって。どうだろ、大丈夫かな?」
「問題はないと思うが…手紙は?ソーマにでも頼めばあっと言う間だ」
「あぁ、それなら頼もうかな。姉さん、無断外出には厳しいし」
「無断……いや、そんなレベルは過ぎていると思うが」
完全に拉致だろう。
呆れながら、親戚である彼女は刹那が帰らないことに関して、一体どう思っているだろうと疑問を持った。心配は……あまりしていないか。便りがないのが良い便り、だ。
それから、何となく過去のやり取りを思い出してみる。
『…お前、どうして王宮から抜け出るんだ?外は危険だぞ』
『まぁ、私は命を狙われる立場だしね…当然だわ』
『分かっているなら共でも付けろ。全く……襲われたらどうするんだ』
『その時は刹那を盾にして逃げるから大丈夫』
『……!?』
『冗談よ』
……。
あれは、あれは絶対に。
「冗談じゃ、なかったな…」
「え!?何が!?」
「いや、こちらの話だ」
…とにかく、これでさらに居候が増えることとなる。外に住まわせるにしても場所が足りないだろうから、自然と屋敷内に住まわせることになるだろう。だいたい、外に行かす必要もなく、屋敷には部屋が余るほど有るのだし。
それでも外に、というのは数々の秘密があった故なのだろう。今なら刹那も良く分かった。分かったが……変わりに寝不足になった。安い代償かもしれない。
だが、秘密を知る人物、関わってしまった人物が纏まってここにいる以上は、やはり一塊にしておいた方が扱いやすくはあろうから、きっと刹那にもこっちに引っ越せと命令が来るのだろう。