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休憩場所について、ずっと座っていたために凝り固まっていた節を伸ばす。
長時間馬車に揺られるというのは昔も経験したことがあるのだが……やはり、好きになれる体験ではない。思うように動けない上に、疲れる。
先ほどまでの馬車の中の様子を思い出して、刹那は軽く溜息を吐いた。……あれは、地獄だ。少なくとも自分にとっては、かなりの。何せ、グラハムからの拘束を振り解きたかったというのに…暴れてはならないために……あまり、あの時の話は思い出したくない。
それでも何か聞きたいと言われればただ一言、『ずっと不機嫌だった』と答えよう。それ以上に正しい表現はないから。
だが……これで、まだ半分なのだ。辺境とまではいかないものの田舎であるあの場所から、都へはかなりの距離が歴然と存在している。
さて、祖国と比べて都までの距離はどちらが遠いだろうかと考え、祖国の方かと結論を出した。屋敷のある所はあくまで国内。しかし刹那の生まれ故郷は国外であるし、そもそも隣接さえしていない。
「始めから比べようもないと言うことか……」
「何の話だ?」
「気にするな。独り言だ」
ロックオンに答えてから、変身済みのアレルヤの姿を探す。そろそろ屋敷に残っている人形たちの様子を見ていた方が良いだろうから、彼の力で裂け目でも作ってもらって会話を……と思ったのだ。都までは遠いし、異端の能力発動に対する機器も設置されて今井だろう。やるなら今のうちである。
引っ付いてこようとするグラハムをビリーが抑えているのに感謝をしながら辺りを見渡し……ウトウトと、馬車の中で眠そうにしているアレルヤの姿を見つけた。
「アレルヤ」
「んぅ……せつなー?おはよー……くー」
「…………」
ダメだった。
起こそうと思えば完全に起こせるだろうが……ダメだ。
寝ぼけている彼を起こそうとするのは忍びなく、可愛いし置いておこうか……としか思うことが出来なかったのだ。
…恐るべし、寝ぼけアレルヤ。
どうしようかと考え、とりあえず訊いてみることにする。
彼以外は乗っていない馬車に乗り込んで扉を閉め、口を開いた。
「アレルヤ、人形たちのいる場所まで裂け目を作れるか?」
「いーよぉ?うふふ…」
「……幸せそうだな、アレルヤ」
「しあわせー」
笑いながらそう呟く彼は、どうやら刹那の申し出を既に忘れているようだ。寝ぼけているのだし、まぁ、仕方がないだろうが。
何となく隣に腰掛ければ、とん、と彼の頭が肩に乗る。
……動けない。
「アレルヤ、退いてくれないか?」
「すー……」
「……」
寝ぼけ所ではない。アレルヤは、完璧に熟睡していた。
本当にどうしようと考え、どうしようもないと結論を出した刹那は、そこで彼の枕代わりになることを決めた。