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宿の屋根の上に、そのヒトは座っていた。
座って、高い塔……否、研究室をジッと、表情が抜け落ちた顔で見つめていた。
「……夜風は体に毒ですが」
「そうだね。じゃあ、もう少ししたら下りるよ」
「アレルヤ、」
呼びかけると、彼はちらりと視線をこちらに寄こして、苦笑を浮かべた。
全く……どうしてこの状況で苦笑が浮かぶのかが分からない。自分は絶対に怒りの感情を表しているか、呆れた表情をしているかのどちらかのハズなのに。ちなみに混ざっているとしたら、割合としては7:3くらいだろう。
だから咎めるように彼を見たが、堪えた様子は一向に無い。塔を見続けているだけだ。
……というか、彼の感情が麻痺しているような気がするのだが…。
一体何故なのだろうと、彼同様に塔を眺めながら思う。
あの場所は昔は都の中なのに使われず、どうしてだか更地の状態でずっと放っておかれていた。あの塔は、そんな場所にここ数年の間に建ったというアカデミーの研究所である。そして研究しているのは医療や薬学といった、人間を直すための事柄。
どこにも、彼が反応すべき箇所はないのに。
どういう事かと考えていると、とん、と背後から足音が響いた。
振り返ってみると、瞳に映ったのは自分と同じ目の色。
「ハレルヤ、貴方は寝ていたのではなかったですか?」
「目が覚めたんだよ。文句あるか?」
そう言ったハレルヤはソーマの隣を通り抜けて、アレルヤの隣に当然のように腰掛けた。そして、アレルヤも微笑みながら当たり前のように受け入れる。
「因果なもんだよな、アレルヤ」
「……そうだね、ハレルヤ。結局何も変わらないよ」
「ま、やってることはマシになったんじゃねぇの?」
「けど、やっぱりあの土地に研究所っていう組み合わせが嫌だ。一緒じゃないか」
二人の話していることは…ソーマの理解の範疇を越えていた。双子の言い様ならば、あの場所には昔、別の何かがあったように思える。だが、それが無いのは育ての親、セルゲイから聞いている。あの場所は昔から更地だったのだと。
そう考えて、あんな好条件の土地をどうして更地のままにしていたのか、その結論が出ていないという事実がある……そのことに気付く。
これは、一体。
「そーいや、お前、その変身いい加減に解けよ。今なら誰も見てねぇって」
「念には念をってティエリアが言ってたけど……こっそり、いく?…というかハレルヤ、君も何か変わった僕の顔が見てみたいとか、つまりはそういうクチ?」
困惑しているソーマをよそに、二人はいつしかほのぼのとした会話を始めていた。これでは……訊くに聞けない。それに、自分も彼の変化(突然年を取ったとかいう)後の姿は見てみたいし。
二人分の機体の視線を受けて、えー、と言いながらも性格上、断れないのだろう。
アレルヤは困ったように笑いながらも、観念したように息を吐いた。
それから数秒後。
「……なんてーか、かっこよさ重視?」
「ですね。大人っぽくなりました」
「けど、あんまり変わってなくね?」
「変わり過ぎも困りますが」
「あ…あのさ、戻って良いかな?そろそろティエリアに気付かれそうな気がするよ…」
二人で一緒に数年後アレルヤについて話し、屋敷の主に見つかって怒られるのを心配している数年後アレルヤの図ができあがった。