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「鈴の君、ちゃんと食事を買ってきたぞ」
「だからッ!鈴の君、は止めろってんだろ!?テメェはどこまでしつこいんだ!?」
「愛すべき物のためならば、地獄の果てまでも行くほどにはしつこいぞ」
「…しつこいって、自覚あんのな」

 じゃあ直せ、と思わなくもないが……自覚をするまでの経緯は想像するに難くないので、それは無理かも知れない。始めから自覚アリということはないだろうから、多分、誰かがいつもいつも傍で口を酸っぱくして言っていたに違いない。

 とりあえず、受け取った食料の中からポテトチップスを取り出して開く。腹がすいたので、いい加減に何か食べないと家にまで八つ当たりを開始しそうだ。寝床が無くなる恐れがあるので、それは出来る限り避けたいところである。

「時に鈴の君」
「殴るぞ」

 ぐっと握り拳を作ってみせると、グラハムは怖い怖い、とさして怖がっている様子でもなく、軽く肩をすくめて見せた。

 ……一度、本気でボコボコにしておいた方がいいかもしれない。どちらが上位か、とは言わない。せめて一回、自分が彼よりも確実に強いという事を示しておかなければ、彼のこの態度は変わらないだろう。

 けれどもまぁ、こんなことで労力を消費するのもバカバカしいので、結局は行動には移さない。今の状況が、少しばかり楽しいと思えるのも事実だし。何せ相手は、自分を監視しなければならないからとはいえ、それでもさほど恐れを抱かずにアリオスと接する数少ない人間だ。そんな相手との会話は、結構有意義だった。

「てーかよ、何で『鈴の君』?」
「君が鈴の装飾品を髪に付けているからだ。その鈴には、何か意味があるのかな?」
「有りすぎるほど有るっての」
「ほう…お聞かせ願いたいものだな」
「却下。テメェに教えるの、何か苛つくから」

 実際、教えたところでどうにもならない事ではあるのだけど。自分以外に活用のしようが無いのだから、当然と言えば当然か。

 この鈴はアリオスの半身…キュリオスの感情を伝えてくれる鈴だ。
 キュリオスの感情によって、鈴の音は何万通りにも変わる。そして、それはアリオスにしか分からないほどに些細な違い。普通に鈴として使用するのも良いのかもしれないが、残念なことに中身のない鈴を普通に使うのは不可能だ。

 ちなみに今現在の鈴の鳴り方から見ると…キュリオスは、少ししんみりとしているらしい。原因はおそらく自分だろう。鈴は、そんなことまで教えてくれる。

「ところで展示会、あれって何時だ?数日後じゃ分かんねぇ」
「明日だな」
「へー明日か……って明日ぁ!?」

 数日後どころではなかった。が……一応だが、言葉は間違っていないから…責めるのも何か微妙である。
 作為的な物を感じて軽く睨め付けると、ふいと顔を逸らされてしまった。

 コイツ…と本気で蹴りをくらわせようかと考えたが、止めた。元々準備はないし、明日になったところで何も変わりはしない。情報提供者である彼の功績を考慮に入れて、適当に相手を再起不能にするだけにして、そして杖を奪還する…それだけだ。

「よし、明日も来いよ。美術館の場所が分かんねぇし」
「鈴の君、このサンドイッチがオススメだが、どうだ?」
「人の話聞いてたかテメェ…」
「ん?サンドイッチがいらないのか?」
「そんなこと言ってねぇ!」

 グラハムの手からサンドイッチを奪い取り、アリオスは思った。
 相変わらず…変なヤツだ、と。

 

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