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本当なら、何年も前に別れてそれっきりの友人や知り合いに会ったのなら……もっと喜ぶべきなのだろうと思う。それがたいていの場合は普通で、当たり前で、一般的であるのだろうと。
しかし、とアレルヤは小さく溜息を吐いた。
この状況……喜ぶことができる、ワケがない。
記憶が戻ってしまって、一番会いたくなかった人が目の前にいる。一番でなくても会いたくなかった片割れがそこにいる。そして、自分の記憶に駆けられていた『鍵』を外す後押しをした存在もいる。現状は、手放しで喜べるものでは到底なかったし、再会が喜べる間柄であったとしても、後押しをした存在がいる以上は素直に喜ぶことはできなかっただろう。つまり、自分たちの関係はそういう感じ、なのだ。
けれども、ここにはソーマがいる。人形たちもいる。
例えば変な態度や、奇妙な言動、落ち込んでいる素振り、気まずげな表情……どれも見せてはならない物だった。心配を掛けるわけにはいかない。
もしも隠すことなく、ありのままの状態で話せるときが来たとして……それは絶対に、彼らがいない時だ。こんな話……聞かせるわけにもいかないだろうし。
「オイ、アレルヤ」
「なっ……何、かなっ!?」
そんな時である。
急にハレルヤに声を掛けられて、アレルヤはつい上擦った声を出していた。あまりに突然で、答える準備が出来ていなかった、ともいうが。
失敗した……と俯いて顔を赤くしていると、呆れたような嘆息が降ってきた。
「お前……何てーか…いや、いい」
「何さ…ハッキリ言ってよ」
「それすらメンドイ」
「ちょっ!?」
何だよそれ!と叫びながらも……彼を見て思い出すのは、ずっと昔の、幼い頃の一番最初の失敗に、何人もの死体だとか、真っ赤に塗り尽くされた壁だとか……そんなもの。
楽しかったときもあったはず、なのだけど。
どうしても……他の記憶に、その思い出は塗り潰されているようだった。
それは……どうしようもなく、寂しい。
悲しく思いつつ、ゆっくりと目を閉じれば……くい、と体が引っ張られる感覚に直ぐさま瞳を開くことになった。
「ハレルヤ……?」
「辛いなら…その記憶ならもう一度、消してやっても良い」
「……!」
抱き寄せられ、囁かれた言葉に一瞬、心が揺れた。
それはとても甘美な誘いであるように思われたし、選んではいけない選択であるようにも思えた。あるいは……選択として挙げてはならない物のような。
だが、あくまで揺れたのは一瞬のこと。
アレルヤは、ゆっくりと首を振った。
「……大丈夫」
「…そうかよ」
「うん…」
あのハレルヤが、こんな提案をしてくれる。
その事実は何よりも彼が、自分にとってのこの過去についてを理解しているからに、他ならないといえるのだろう。これは……とても、辛い記憶だから。
そして、だからこそ、と片割れに体重を預けながら思う。
だからこそ、向かい合わなければならない記憶なのだ。