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 その音に、音の大きさに。
 鈴に頼らずとも分かるその事実に、ふて寝をしていたアリオスは飛び起きた。

「鈴の君?」
「黙ってろ」

 訝しげなグラハムの声を遮って、静かに目を閉じ耳を澄ませる。
 音は、音はどんな調子だ。
 大きすぎて逆に分からない調子は、掴もうとしなければ掴めない。

 この感じは懐かしさだ。
 この感じは戸惑いだ。
 この感じは不安だ。

 それ以上は掴めない。
 けれど、元気であることは良く分かった。

 では、一体彼はどこにいるのだろう?
 細かな調子の分からない代わり、大きい音は居場所を良く知らせる。

 東の方?西の方?
 北の方?南の方?

 音を掴め。
 それは彼の、半身の居場所を伝える大切な手がかり。

 そして。


 掴んだ。



『ケルディムもデュナメスもいい加減に止めようよ…』
『キュリオスの言うとおりだな』
『全く……不毛にも程がある』
『けど悪いのはコイツだろっ!?』
『デュナメスー、しつこい男って嫌われるんだぜー?』


 そうして聞こえてきた声に、眉根を寄せる。
 変だ。今まで、こんなことは一度もなかったというのに。
 掴んでも居場所が分かるまでで、声なんて、一度も届いたことはなかった。

 これは何だろうと首を傾げ、心の片隅の残しておいて、今は気にしないことにした。推測するにも情報がないし、優先順位は半身の方が上だ。

 とにかく、居場所は分かったのである。
 あとは動くだけ。
 だけれど。

「鈴の君」
「っせぇな…!邪魔すんなよっ!」

 扉から出ようとしたところで、肩を掴まれてしまった。
 振り解いて、すっと目を細めて睨みつける。

「邪魔すんのか?」
「違う。約束は守ってもらいたいだけだ。それに…君がそこまで焦るというのはつまり、君の半身についてだろう?」
「……まぁな」
「ならば、明日を待てばいい。展覧会の話は大々的に告知されている」

 どんな状況にあったとしても、気付かないことはないだろう。
 そう続けるグラハムの言葉は決して間違っていない。ここから出ないことも約束に入っているのは事実で、彼がよく働いているのも事実。

 ならば、とアリオスはしばし、待つことにした。
 ……もどかしくは、あったのだけど。

 

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