[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
222
その音に、音の大きさに。
鈴に頼らずとも分かるその事実に、ふて寝をしていたアリオスは飛び起きた。
「鈴の君?」
「黙ってろ」
訝しげなグラハムの声を遮って、静かに目を閉じ耳を澄ませる。
音は、音はどんな調子だ。
大きすぎて逆に分からない調子は、掴もうとしなければ掴めない。
この感じは懐かしさだ。
この感じは戸惑いだ。
この感じは不安だ。
それ以上は掴めない。
けれど、元気であることは良く分かった。
では、一体彼はどこにいるのだろう?
細かな調子の分からない代わり、大きい音は居場所を良く知らせる。
東の方?西の方?
北の方?南の方?
音を掴め。
それは彼の、半身の居場所を伝える大切な手がかり。
そして。
掴んだ。
『ケルディムもデュナメスもいい加減に止めようよ…』
『キュリオスの言うとおりだな』
『全く……不毛にも程がある』
『けど悪いのはコイツだろっ!?』
『デュナメスー、しつこい男って嫌われるんだぜー?』
そうして聞こえてきた声に、眉根を寄せる。
変だ。今まで、こんなことは一度もなかったというのに。
掴んでも居場所が分かるまでで、声なんて、一度も届いたことはなかった。
これは何だろうと首を傾げ、心の片隅の残しておいて、今は気にしないことにした。推測するにも情報がないし、優先順位は半身の方が上だ。
とにかく、居場所は分かったのである。
あとは動くだけ。
だけれど。
「鈴の君」
「っせぇな…!邪魔すんなよっ!」
扉から出ようとしたところで、肩を掴まれてしまった。
振り解いて、すっと目を細めて睨みつける。
「邪魔すんのか?」
「違う。約束は守ってもらいたいだけだ。それに…君がそこまで焦るというのはつまり、君の半身についてだろう?」
「……まぁな」
「ならば、明日を待てばいい。展覧会の話は大々的に告知されている」
どんな状況にあったとしても、気付かないことはないだろう。
そう続けるグラハムの言葉は決して間違っていない。ここから出ないことも約束に入っているのは事実で、彼がよく働いているのも事実。
ならば、とアリオスはしばし、待つことにした。
……もどかしくは、あったのだけど。