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ティエリアは廊下を歩いていた。それほどの広さはない、やけに長い廊下だ。
……謎の声は出るなと言った。近くに他のが来るから、すれ違いになるからと。
だが、それが事実であると誰が決めた?
正直、ティエリアはあの声を信じる気はなかった。怪しいことこの上ないあの声を、信じてしまうのは自殺行為とさえ捉えていた。姿さえ見ていないのだから、このような判断を下すのは当然のことだろう。
だから、この場所から出ようとしている……のだが。
一向に終わりの見えない廊下に、苛立ちではなく不審を覚える。
長い……長すぎるのだ。
都は建物が密集している。だから、大きな家を造れるのは一握りだけだし、造れたとしても大きさはたかが知れているのだ。だというのに、これだけ長い廊下というのは……有り得ないだろう。子供時代、都の中で暮らしていたから断言できる。これだけの長さの廊下、どうやったって造るのは無理だ。
出来たとしたら例の裂け目の中だとか……あとは。
地上で無理ならば。
「地下、か……?」
それならば可能だろう。地下には際限がない。
問題は、誰がこの場所を造ったのかである。
とりあえず違う次元だとか、そういう話は考えないことにする。そうすると誰が造ったか……というのが、とにかく結論が出なくなってしまうのだ。人間以外、とそれだけしか分からなくなってしまう。
だから人間といった、次元がどうのこうのと言えない者たちが造った場合…地下に建設されている場合のみを、今は考えてみるべきだろう。
地下に造ると言うことは、理由としては二パターンが考えつく。
一つめは、場所がなかったため。
二つめは、隠してしまうため。
もちろん他の理由も考えられる。日光を浴びるのが嫌だったとか、ちょっとした宗教上の問題だとか。考え出せばキリがない。
しかし、自分が最初にいた場所……あの、謎の実験室があったから、とりあえず日光が嫌だったという案は外しておこう。宗教上、というのも。
他の部屋もついさっき覗いてみたが、どこもかしこも何らかの実験を行うための場所。始めから取り付けられている器具もあり、空いている場所に後から…というのも考えにくいのだ。それに何より、そんな理由でここまで長い廊下を造り出す理由もない。どれにしたって、廊下に関しては同じなのだが。
とにかく、ここで実験が行われていたのは事実。
破棄されたのも事実だろう。
見つかってしまったのか、移転したのか……必要がなくなったから取り壊したのか。どれにしたって、現状はあまりに中途半端に思える。見つかって…というのならば慌てて去っていくだろうから器具はある程度は生きているだろう。移転したのならもっと完全に破壊するか、撤去する。必要がなくなった場合も、また然りである。
「ここの現状の中途半端さが不思議かい?」
ふいに声がして、顔を上げる。
直線の廊下の、その向こうに、自分そっくりの誰かが、いた。
そしてその誰かは笑って言った。
「それはね、壊されかけたここを僕が救ったからだよ」
「何?」
「壊すなって、僕は言ったはずなんだけどね……ここにいた人間たちは聞き入れなかったんだよ。バカだよねぇ……そんなこと、僕が許すわけがないのにさ」
そして誰かは、ニコリと嗤った。
「だって、ここは君の故郷。生まれた場所なんだから。そこを壊させるわけがないだろ?」