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03. とりあえず酒場で情報を集めませんか
「あぁ、そりゃ以人狩りだ」
「……『イジン』?」
「そう、以人」
聞いたことのない言葉に、刹那は首を傾げた。イジン、というのは一体。
その言葉を自分に伝えた相手に視線で問えば、酒場の亭主はグラスを拭きながら答えた。
「以人の以は『以外』の以でな、以人ってのは『人間以外』って意味と『人間以下』って意味があるらしい。ま……俺としちゃ、『人間以下』ってよりは『人間以上』だと思うが」
「同感だな。彼らより上位にいるなど……馬鹿な人間の思い上がりだ」
フン、と鼻を鳴らし、ティエリアがグラスを傾ける。中にはジュースが入っていた。
酒場なのに……とは思うが、『もしも』の事態のために酔うことは極力避けたいのだそうだ。以前、それ関係で店の床に穴を開けたそうで、全焼しなかったのが奇跡だったとか。
何となく納得しつつ、刹那はミルクを一口飲んだ。これは注文したわけでなくて、店主からのサービスだった。……自分は二十歳越えしているのだが…。
とりあえず、その『以人』とやらについて詳しく話を聞くことにする。
「それは、どんな種族だ」
「種族ってもな……見た目は人間と変わらない。違うのは中身の方だ」
「中身……?」
「あぁ。無知な人間は人外と形容しているが、我々は『古来種』と見ている。僕たち人間よりも、より純度の高い中身……魔力を有しているとな」
魔力、その言葉を心中で反復する。
誰もが生まれながらに、多かれ少なかれ持っている力。それを多く持ち、繊細なコントロールを行える者が、先ほどのティエリアのような特異な力を使える。
だから、その力を使える存在は少ない。
そういう経緯から彼は追われ、店主に…ロックオンに拾われたのだそうだ。
度の過ぎた親切は身を滅ぼすような気もするのだが……ティエリアは強い。彼を味方にした時点で、彼がある意味最強になったのは事実。彼に手を出せばティエリアに睨まれるので、ロックオンの身の安全は保証されている。
そんな理由から、自分もここに匿われているのだけど。
「魔力の純度が高いと、何かあるのか?」
「僕たちなど遠く及ばない程の力を使用できる」
「具体的には」
「魔力を使う腕を磨き上げれば……小指で街一個壊せるくらいか?」
「それは……」
遠く及ばないとか、そういう次元じゃなかった。
若干顔を引きつらせていると、クククッと楽しげにロックオンが笑う。
「そんな驚きなさんなって。何もしなけりゃ悪いことにはならないぜ」
「だが……以人を…狩っているのだろう?」
ならば破壊対象にされそうな気がするのだが。
そう考えて、ふと疑問を抱く。
「……どうして、狩りが行われている?」
「……実はな、以人は滅んでんだよ」
「何?」
「確か十年くらい前だったか……どっかの過激派が以人の村を襲ってな。村は壊滅状態になったらしいぜ」
そこまで言われれば、どういうことかと想像が付くものだ。
刹那は額に手を当てて、溜息を吐いた。
「…生き残りがいたのか」
「そうだ。それが分かったのがつい先日で、何人ものお偉方が顔を真っ青にして以人を殺せと命じたそうだ。怪しきも罰せよ、とな」
ティエリアの言葉に、本気で頭が痛くなってきた。
それはつまり、自分はどうしようもなく…くだらない事に巻き込まれてしまったのか。
ならば早急に国を出ようと思ったところで、ロックオンから衝撃の事実が告げられた。
「でな、以人を逃がさないようにって国境越えるのも禁じられてな…」
この状況からは逃げられない、らしい。