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拍手再録品です。
10.愛想笑い (王留美)
豪華で煌びやかなパーティ会場で、今日も浮かべるのは仮面の笑み。
本心から笑ったことなんて、一体何回くらいだろうか……数えるほどしか無い。そういう確信があった。心から笑える瞬間なんて、本当に少ないのだ。
どうしてなのだろうかと考えることがあるけども、結局結論は出ないままに時間は過ぎていく。全く……今日も、昨日と全然変わらない。一日を過ごしながら、名前と顔は一応頭に入っている大人たちを相手に愛想笑い。それだけで簡単に彼らは騙されてくれるから、楽と言えば楽なのだけど。
こうしてみると、単なる金持ちの相手をしている事がバカバカしくなる。エージェントとして情報を得るためという側面もあるのだが、それでも役目を放り出して、ここから抜け出して深呼吸をしたい気分になる。
実際はしないけど。
…それをしては、自分の目的が達せられないから。
目的……『世界を変える』こと。
留美の世界はモノクロだ。色があるのは認識しているが、それがどうしても『色』として理解できない。赤を見れば赤と言えるけれど、それを心が理解しているかというと、そうではない……そう、これは概念の話。
だからもっと、綺麗に心から『色づいている』と感じられる世界が欲しいのだ。
そのために、まずは世界に変わってもらわなければならない。
そのための努力なら惜しまない。豊富にある資金も、豊かな人脈も、集まってくる情報も、全てをそのために活用しよう。
だから、留美は振り返っていつもの笑みを浮かべた。
「紅龍、新しい情報が入りましてよ」
「ではソレスタル・ビーイングに暗号通信を」
「私は引き続き情報を集めます」
「かしこまりました、お嬢様」
一礼して離れていく紅龍の背を眺め、見えなくなってからようやく留美は歩き出した。
世界は変わっていく。ソレスタル・ビーイングによって。
だけれど、変わった世界に『色』はあるのだろうか?
……無かろうと、それでも構わない。
その時は再び、世界を変えてしまえばいいのだから。
(2008/12/07)