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08. 崩れかけた神殿の隠し階段を降りると
気付けば、刹那たちは大きな神殿の前にいた。
といってもその神殿は既に廃棄されているようで、見るからに古びていて崩れかけていた。ここ数年は誰も、旅人でさえ誰も立ち入っていない様子である。
さて、どうするべきかと悩んでいると、何でもないようにティエリアが前に進んだ。
「ティエリア…入るのか?」
「神殿だからな、何か書物があるかもしれない」
「書物?」
「俺は、とにかくマリーよりは強くなりたい」
力強く言うティエリア。どうやら魔法か何かの書物を探して、あれば回収して己の技術の向上に役立てようと考えているらしい。にしても、マリーを越えるというのは……以人を『人間以上』として認めているのは誰だったろう……。
それでも、やはり師匠を超えたいと願うのは弟子の性なのかも知れない。刹那にだって似たような経験はある。まぁ、剣技でなくもっと別の方向の師匠なのだけど。料理だとか、旅の知識だとか。……途中で、どうやって越えるんだろうと思って、越えようとするのはスッパリと止めたが。
……それはともかくとして、入ることは…問題ないだろう。
そう判断して、先に神殿に入っていったティエリアの後をライルと共に追う。
入ってみれば、内部は意外と綺麗だった。
「凄いな……塵一つ無いぜ」
「恐らく、この場は人間には破棄されたものの……神殿特有の特殊な力は、失っていないんだろう。それがこの状態を保っている」
「……特殊な力?」
「神殿の持つ神聖さ、静謐さ……そんなモノを生み出す力のことだ」
問いに答えるティエリアは、壁際の瓦礫を除けていた。魔法を使わないのは、書物があった場合にそれを傷つけてしまう恐れがあるからだろう。どこからどう見ても肉体労働に向いていないような彼だったが……目的が目的だからか、とてもしっかり働いている。
良いことだと思いながら、刹那は入ってからそのまま前へ進む。別に自分は何も探す必要など無いので、神殿の内部を観察してみようと思ったのだ。
ライルはというと、手持ち無沙汰な様子ではあったが……適当に、入り口あたりの瓦礫を除けてみたりしているようだった。ティエリアを手伝うためではなく、これは本当に暇だからの行動らしい。見ていて良く分かった。
しばらくしたら外に出よう。そう決めながら祭壇のあったのであろう場所へたどり着いたとき……ガゴンと、何かが抜ける音がした。
バッと音のした方を向けば…ライルが唖然と床の方を見ていた。
「ライル、何を見つけた?」
「え……いや……何か床が抜けて階段が」
「階段?…隠し階段か」
もしかしたら、そこにティエリアが探しているような物があるかも知れない。
ふとそう考えている隙に、ティエリアはライルを押しのけてとっとと下に降りていった。
カツン、カツンという音を聞きながら、刹那はライルと顔を見合わせた。
「行くかい?」
「…愚問だな」
まさかティエリアを一人にするわけにもいかない。
刹那はライルの直ぐ傍まで歩み寄って、それから共に階段を降りる。
一段一段が程よい高さの石造りの階段は、とても長く続いているように思えたが……その実、あまり長くはなかった。あっと言う間に底辺に辿り着いたのだ。
そこは地下洞窟に作られた、もう一つの神殿だった。
さらにつけくわえるならば……いたのは、ティエリアだけではなかった。
呆然と彼が見やる方…つまり、第二の神殿の祭壇の方に刹那も目をやり、愕然とした。
「な…何故ここにいる……マリー・パーファシー……っ!?」
ティエリアの言葉を聞きながら、隣でライルが衝撃を受けているのを見ながら、違う、と刹那は否定した。
違う。この人物は……マリーに見せられた、あの水のスクリーンでの映像の中の…
「お前……マリーを知っているのか?」
「へぇ…その物言いだと生きてんだな。あの女も結構な悪運持ってんじゃねぇか」
三人と対峙している二人は、片方は驚き、片方は笑い…両方、安堵しているようだった。
そう。以人の生き残りであろう二人は。