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11. 漆黒の剣士はただ沈黙を保つ
「お、刹那も起きたのか」
「あぁ。いつまでも眠ってはいられない」
合流したライルに頷いて見せ、刹那は先ほどのことを思っていた。
ティエリアでは持ち上げることが出来なかった鍵を、自分が取ることが出来た事……あれは、何かを指しているのだろうか。訊いてみればティエリアは酷い非力ではないようだし、ならば何らかの理由があったと考えて然るべきだろう。
まぁ、そこまで思っても、考える材料が無ければ結論が出るわけでもないのだが。
だからそこで考えるのは止めにして、刹那は鍵を鍵穴に差し込んだ。
「開けるぞ」
「不可解な鍵だが……使って構わない。そこしか可能性はないからな」
まだ考えているらしいティエリアからの許可も下り、刹那が差し込んだまま鍵を回せば、カチ、という音が響いた。
「開いた」
「んじゃま、ちょっと入ってみますか」
刹那が開けた入り口をライルが通り、ティエリアが通り、最後に刹那自身が通る。
三人が立ち入った部屋の中……そこには殆ど何もなく、あるのは部屋の中心に置かれている寝具くらいのものであった。
そして、そこに寝ている誰かくらいのもの。
「……誰だ?」
「…訊くな。分かるワケがないだろう。まぁ…先ほどの以人どもに訊けば別だろうがな」
「ん?訊くのかよ?」
「……訊けるわけがないだろう」
脱力した感じの漂っているティエリアの言葉は、確かに事実だろう。彼らにとって以人は敵で…人間に敵対する宣言をした彼らは人間にとって間違いなくソレで、そんな相手にこんなことを悠長に訊く暇など無い。
だが、それでも刹那は……まだ、彼らを敵として見ることを躊躇っていた。
「ま、顔でも確認すれば少しは分かるんじゃないか?」
「顔……」
ライルの言葉にハッとする。
そういえば。そういえば、マリーに見せてもらったのは三つの顔。その内の二人には会っているのだから、このままでは…あと一人が残ってしまう。
もしや、と刹那は急ぎ足でベッドの方へと近付いて……やはり、と思った。
そうしている自分の隣にティエリアもライルも来て、二人とも、自分と同じように驚愕した風に呟いた。
「ハレルヤ……!?」
「いや。だが……しかし…」
「……二人とも」
刹那はついと、とある方向を指さした。
そちらには扉があり、恐らくあの扉こそ……
「多分、あそこが出口だ。俺は残るから、行け」
「……は?刹那?」
「二度は言わない」
呆けた声を出したライルに一瞥をやって、ベッドの縁に腰掛ける。
自分はここに残らなければならない。ベッドで寝ている彼の顔を見てしまい、様子を見てしまったからには……確認を取らなければ気が収まらない。
その後、当然ながら説得しようと躍起になる二人を黙殺しつつ、考えるのは以人を敵として見れない理由。
考えてみれば……簡単なことだ。
先に喧嘩を売ったのはこちらなのだから、買われてしまっても仕方がないのだ。
「刹那、本当に残るのか?」
「……」
「……分かった。行くぞ、ライル。外に出て仲間を集め、対抗策を練らなければ…」
「え?あ…あぁ」
そうして去っていった背を、刹那は見つめさえしなかった。