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「ねぇ、これなんて似合うと思わない?」
「似合うとは思うし色合いも彼に合うように見受けられるがだがどうしてお前は……」
「え?」
「どうして女物を持ってくる!」
ズビシ、と指を突きつけられて、リジェネは困ったように眉根を寄せた。
そんなことを言われても仕方がない。
「だって似合うじゃないか」
「似合うだろうな。そこは認める」
「ならそれで良いじゃないか。他に問題ってあるの?」
「あるから言っている!アレルヤは男だぞ!?」
「似合うから良いんだよ」
というか、とリジェネは心中で溜息を落とす。変身能力を使わせて女装させてパーティに出そうとか考えていた彼に言われたくはない。
まぁ、覚えていないのだから仕方ないけど。
……それに、理由は別に似合うから、それだけではない。
この家には女物の、しかも子供の服は女の……つまり少女の服しか置いていないのだ。
ならば選びようもなく、だからこそこれを持ってきたワケなのだけど。
それを離すと不審げな視線はそのままに、だがある程度は納得してくれたらしく、ティエリアは小さく息を吐いた。
「ならば仕方ないが……何故、女物しかないんだ?」
「んー……聞いた話によると、パーファシー一家って、昔、娘さんがいたらしいんだけど」
「昔?今はいない……いや、お前が来たときにはいなかったのか?」
「うん。夫婦二人で慎ましく暮らしてたよ」
子供の香りなんて、どこにもなかった。
いたという娘のことも噂で聞いた程度で、ちょっとしたもめ事があって出て行ったらしいとしか知らない。だから本当にいたかも分からない。
実在したか不明。ちょっとしたミステリーだ。
クスクスと笑って、ふと、ベッドで寝ていたはずの少年の姿が無いことに気がつく。出て行ったときには、再び熟睡モードに突入していたはずなのだけど。
「ねぇ、ティエリア。アレルヤは?」
「さっきフラリと出て行ったが」
「え!?」
「何を焦っている?そのうち帰ってくるだろう」
呆れたように溜息を吐くティエリア。
確かに普通ならそうだろうが……彼も、目の前の青年同様に少し『危険な』状態なのだ。ちょっとした刺激で記憶が戻ることだって、有り得るだろう。
だから目の届く場所に置いておきたかったのに。
慌てながら部屋の外へと再び出ようとして……しかし、先にドアが開いた。
「探し者はこの子ですか?」
「……」
いたのは、長身の女性と、その女性に抱き運ばれている長い黒髪の、オッドアイの少年。
まさしく探していた少年だった。
「アレルヤ!勝手に出て行ったらダメだよ?」
「……」
無言ながらこくりと頷いた彼を満足げに見て、リジェネは女性の方へと視線をやる。
そうして微笑んでやって、言った。
「君もお疲れ様。休んで良いよ?」
「でも……使用人も見張りも何もいないのは危険では……」
「大丈夫だから、ね?だからオーガンダムはのんびりしてて?」
「……はい、では」
心配されたことにだろう、嬉しげに細められた目には、微量の狂気。
「休ませていただきます。お父様」