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拍手再録です。とりあえず増える可能性は高いです。
~四年間 ver K~
今日も、拷問があった。
目の前で自分のマイスターが傷ついていく姿を思い出して、顔を伏せる。本当は手を伸ばして、敵意を払って、守ってあげたかった。
けれど、それはしてはいけないコト。
自分は『ここにはいない』存在だから、手を出すのは許される行為ではないのだ。これは、絶対の摂理にして道理。手段があろうと使ってはいけない。
だから、自分が傍にいようと意味はないけれど。
「アレルヤ……」
呟いて、再び拘束されたマイスターを見て、泣きたくなった。
ここにいても意味なんて無い。
でも、傍にいたい。離れたくない。
痛みを分け合うことが出来なくても、自分は彼の傍にいたい。足しになんてならなくても良いから、一人にさせたくない。彼に自分は見えなくて、自分がいようといまいと『一人』なのは変わらないと知っていて……そう、これは自己満足。
分かっている。
分かっていても。
分かっていても、傍にいたい。
「大丈夫だよ」
聞いてもらえるワケのない声を紡ぐ。
「君のコトは僕が見てる。見守っている。僕が僕の役割を果たし終えるまで、僕らは君たちの世界にあまり干渉できなくて、だから何も出来ないけど……けど」
そこで言葉を切って、壁際から椅子の後ろに歩み寄り…背もたれごと、彼を抱きしめた。
「絶対に、僕は傍にいるから。僕は君から離れないから……ずっと傍にいるから、だから安心して、とは言えないけれど、今は…」
どうか眠って、この現実から離れて。
そう続けてしばらく後、穏やかな寝息が耳に届いた。
「……オヤスミ」
微笑んで、ほんの少しの喜びに浸る。
そして、名前を呼んでもらえない一つの存在は、ゆっくりと瞳を閉じて、とてもとても大切な人間の後ろで、椅子にもたれ掛かって瞳を閉じた。
二人を包み込むのは、暖かな暗闇。
(2009/01/04)
~四年間 ver E~
中東の、砂塵の吹き荒れている場所に一台のジープが止まっていた。運転席には一人の青年の姿。
そして、その隣にも、見えなくても一人。
自分が、隣に座っていた。
座って、自分のマイスターを眺めていた。
……この数年間で、彼は、自分のマイスターはとても成長したように思う。身体的にも、精神的にも。ずっと、あの連邦軍のガンダム総統選の後からずっと、傍にいて見守っていたから……良く分かる。彼はとても変わった。
けれど、変わらない物もある。
それは彼の想い。
「世界の歪み……か」
呟いて、マイスターと同じ方……つまり廃墟となった町並みを見る。
そんなモノがあるのなら、この惨状は間違いなくソレのせいなのだろう。それによって人々も狂い、歪み、結果としてこのような状況を生み出す。
彼と共に放浪して、実感として理解した。
「……人間は不便だな」
ドアの部分に寄りかかり、目を閉じる。
不便……そう、あまりにも不便だ。自分たち機械……道具なら、使用方法は限られて、ぶれることはない。だが、人間はあまりに多くを考え、惑う。
見ていて少し、腹立たしいほどには。
結局の所、自分は『人間』を理解しきれていないのだろう。自分が彼らを知るには、まだまだ観察の期間が短く、そう簡単に分かるほど単純なモノではないのだろう。
そんな自分だから、今のマイスターが丁度良い。真の一本通っている、ぶれない彼が。
『これから』は長く、彼の想いや性格が変わってしまうこともあるかもしれない。多分、それでも付いて行く。道具たる自分には拒否権がないとか、そういう話ではなく……自分から、彼と共に在ろうとする。
「……それくらいの好意はある」
共に戦った、戦い続けた、戦い続けている彼だから。
大切なパートナーだから。
「これからも長い付き合いになるな……刹那」
フッと笑って零した声は、誰にも拾われることなく空に吸い込まれていった。
(2009/01/04)
~四年間 ver D&V~
自分と彼は隣り合って座っていた。
そこは、どこかの場所の、どこかの部屋。
強いて言うのなら、自分たちの新しい『体』の製造場所。
「また……戦うのか」
新しい本体を眺めていたとき、ふいに、彼がポツンと呟くように言った。
その様を、自分は片方の眉を上げて見る。彼が弱音を吐くとは何とも珍しい。彼は、彼のマイスターだった人間と同じように、無駄なくらいしっかりと保護者気質だ。だから、他人に心配はあまり掛けようとしないのだが。
そう思い、あぁ、と納得する。
彼のマイスター『だった』人間のことを、まだ引き摺っているのか。
確かに惜しい人材を失ったとは思う。けれど、ずっと引き摺っているわけにはいかない。自分たちは新しい使い手を迎えるために、先代への未練は出来るだけ断たなければならないのだから。
……所詮、これも失わなかったモノの戯れ言だろうが。
はぁ、と溜息を吐いて、ついと視線を彼に向ける。
「迷うな」
「……」
「俺たちは道具、それだけだ」
そして人殺しの道具。そんな自分たちを使う存在は、殺されたって文句は言えない。それは使い手も分かっているはずなのだ。
だが、そこは言わずに話す。この考えについての説明を上手に纏める自信はないし、彼なら自分の言いたい事…意図を汲み取ってくれるだろう。
「……だな」
自分の言葉を受けてだろう、ふっと笑った彼はそのまま立ち上がった。顔は、少しは見られた物になっているように思える。
その後、ガシガシと頭を掻いて……彼は、いつも通りに笑った。
「悪いな。柄になく落ち込んで。…それだけ気に入ってたんだよ。ロックオンが」
「……別に。珍しい姿が見れて良かった。後で笑い話にしてやる」
「オイオイ……」
呆れている彼から視線を外し、再び新しい『自分』を眺めながら思う。
「ティエリア……」
自分のマイスターもまた、いずれ、彼のマイスターのように消えてしまうのだろうか。
その答えは、『その時』が来るまでは、出ない。
(2009/01/04)
~小さい平穏~
「出番が無くて退屈ー」
「だよなー」
「いや……お前の方は出番がない方が良いんじゃないか?敵側だしな」
ぐでんとだらけている弟妹たちを眺め、アインは小さく息を吐いた。
ここは、アインの出番が無くなって……つまり、まぁ、自分のパイロットにあまり喜ばしくないことが起こってから、実体化して人間として借りたアパートの一部屋だった。
別にこんな住居が無くても自分たちは大丈夫なのだが、あるのと無いのとでは結構心の方が変わってくる。無意味だが、バラバラになった自分たちスローネの三兄弟がこういう風に集まることが出来る場所。それだけで意味はなくとも意義はある。
「私としては、お前たちの出番がないのは嬉しいことなんだがな……」
「えぇ?どうして?」
「ゆっくり出来るのも、良いことだからだ」
言いながら菓子を出してやれば、途端に輝き出すアルケーとリィアン…かつてのツヴァイとドライを見て苦笑を浮かべ、やはりこの時は良い物だと実感し直す。
こういうのを『普通』と言うのだろう。何気ないことを嬉しく思って、大切な者と一緒にいて。そのくらいならば戦っている者も変わりはしないだろうが、ここに戦いという者はない。それらがそろって初めての、『普通』というかけがえのない大切な。
こんなことを思えるようになったのも、こうして生活しているからこそ。
「リィアン、あまりケーキだけ食べるな」
「美味しいんだもん。しょうがないよってアルケー兄!それ私の!」
「ふっ、残念だがこーいうのは速いモン勝ちだぜ!」
「ひーどーいー!」
「落ち着きなさい。まだたくさんあるから」
ぶぅっと頬を膨らませるリィアンを宥め、アインは立ち上がった。菓子を取りに行くためである。
本当、作りすぎて困っていたところなのだ。一人というのは中々暇なもので、暇つぶしにと作っていたらいつの間にか、一人では消費しきれない程になっていた。全て保存が利きそうな物だったのが救いだったのだが。きっと、三人全員揃っていたらあっと言う間に無くなっただろうと想像できただけに、少し、思うところはあった。
また三人で暮らせるときが来るのだろうかと、考えてみるとその日が待ち遠しく思える。
たとえ、それがどんな結果でもたらされる事であったとしても。
(2009/03/14)(リィアンは結局ドライでしたけどね…)
~お父さんと僕ら~
「お父さん、コーヒーここに置いておきますね?」
「あぁ、すまないね」
「いえ…僕が好きでやってることですから」
頬を染めながらもオレンジ色の頭を軽くうつむき加減にした子供の頭を、イオリアが労るようにポンと叩く。
それを眺めて、俺はのんびりと窓際で微睡んでいた。
俺たちがこの場所に現れてから、早一週間。最初は戸惑っていたらしいイオリアも、今ではすっかりと俺たちに慣れきっている。まるで子供のようだと彼は笑うが、実際に彼が父親なのだから笑い事ではないだろう。なのに穏やかにイオリアは笑うのだが。
どうやら、俺たちはイオリアによって理論を確立され掛かっている存在らしい。
だから、俺たち四人が日の目を見るかどうかはイオリア次第なのだそうだ。
……バカらしい。そう思う。その理論が確立する事はもう、すでに間違いがないというのに。何せ……自分たちがこうして、存在しているのだから。
「茶髪の子はどこへ行ったのかね?」
「赤いヒトと一緒に別の部屋にいる……と思います」
茶髪というのは俺たちの中でも世話焼きなヤツ、赤いヒトというのは赤い髪の微妙に短気なヤツだ。その性格の関係からか、二人は一緒にいる事が多い。自然と、それが理由で俺と橙髪のアイツとが一緒にいる事が多いが。
まぁ、別にアイツは嫌いではないから良いのだけど。
そう思いながら俺は眉をしかめた。
「…イオリア」
「何だね?」
「俺たちに名前はないのか」
このままでは本当に面倒だ。髪の色で呼び合うなんてどこの時代の誰だ本当に。俺たちには言葉もあるのだから、それを駆使しないでどうしろというのだろう。
そういう思いも込めて言ったのだが、イオリアは静かに微笑んで答えた。
「それは、後世の人々が決めてくれる」
「お前ではないのか?」
「おそらくはね」
「そうか」
大人しく答えながらも父親のくせに、と少しだけ思った。
(2009/04/15)
~鳥籠の住人は小鳥だけではないと、あの頃の僕らは知ることもなく~
初めてヒトを殺したんだ。
そう言って弱々しく笑みを浮かべていた彼は、今はどうにか兄貴分によって落ち着いて、本体の中で静かに睡眠を取っている。
その時のオレンジ色の髪の少年の様子を思い出して、苦々しい気持ちになった。
全く、何てことか。
想像していたことが実際に現実となって目の前に突きつけられる、というのはこれほどまでに面倒なことだっただろうか。きっと他の、剣を持った彼や銃を持つ彼などがこのような本能をすれば即座に張り倒しでも何でもした。
けれど、相手が彼であるという事実だけで、自分はほら、こうも動きが取れなくなる。
それは恐らく、今何かを言えば彼がさらにへこんで使い物にならなくなるから、だろう。非常に、それは困るのだ。
そして、それだけではなくて、
あと、一つ。
「……バカバカしい」
浮かんできた戯れ言を、吐き捨てることで消して、腕を組んで壁に背を預ける。
バカバカしい。そんな想いが一体何の役に立つという。自分たちの『紛争を根絶せよ』という目的、義務、存在理由、存在意義のどこに役立てることが出来るというのか。否、どこにだって役立ちはしない、
所詮こんな気持ちなど、その程度の物なのだ。
再びモヤモヤと胸の底でうずき始めた感情に苛立ちながら、自分はどのようだったかと『初めての人殺し』を思い出す。が、何の感慨もわかないし、衝撃を受けることもなかった。全ては作戦成功のための行動だ。仕方ないとは言わないが、取るべき行動であったことに間違いはない。
だから、本当に。
作戦成功に貢献しないだろうこの感情は腹立たしい。
「こんな考え」
ポツリと呟き、くる、と今まで見ていた風景に背を向けた。
「兄貴面をするアイツにでも任せておけば良いんだ」
邪魔なのだから、いらないのだから。
勝手にやってそうなアイツに任せてしまえば良いのだ。
だって、こんな感情、役にも立たないから。
仲間が心配、などという感情なんて。
(2009/05/10)
~僕とハロ~
その、オレンジ色の球体を見つけたのは偶然だった。
「あれ?ハロ、どうしたの?」
『あぁ……アリオス』
「…もしかして、電池切れ?」
『……うん、まぁ』
直接心に響くような言葉に耳を傾けながら、アリオスは辺りをうかがってから精神体を実体化させた。実体化を行った場合、自分はこの艦には存在しない人間であって、見つかったら服装的にも凄く問題があるのである。
それから、ひょいとハロの体を抱き上げて歩を進め始めた。
「えっと…ライルの所で良いのかな」
『うん。悪いね。返答がこんな形になることを含めて。今、僕、精神体出せなくて』
「問題ないよ。電池切れだものね」
『そう言うこと…何だか面倒だよ』
もしも精神体であったらため息でも吐いていただろう声音でハロは呟いた。
『でも、ライルも酷いと思わない?何で僕を置いていくんだろうね?』
「ライルはまだ接し方が分かってないんだと思うな…」
分かっていたらやるだろう。ハロを怒らせると恐ろしいのは周知の事実であるはず、なので。もしかしたら彼はまだ恐ろしさを体験していないのかも知れないが。
幸いにして、あまり自分は被害を被った事はないのだけれども。
ケルディムは、結構苦労しているようで。
まぁ、それは彼の『兄』と言えるような性格故だろうか。
そんなことを思っている間にも、アリオスとハロは目的地に着いていた
「ついたよ、ハロ」
『ありがとうアリオス。ここで良いよ』
「うん。じゃあ…」
と、アリオスはハロを床において、コンコン、と部屋をノックした。中に人がいるのは何となく分かるから、多分出てきてくれるだろう。
精神体に戻れば済む話なのだけれど、何となく物陰に隠れてこっそりと様子を見ていると、やはり中にいたらしいライルがドアを開け、驚いた表情でハロを見て後、ちゃんと持って入ってくれた。充電をしてくれるのだろう。
良かったと笑んで、アリオスは格納庫に戻る事にした。
(2009/12/15)
~解体機械~
僕は機械。意志を持たされた機械。
そして。
今、まさに壊れかかっている機械。
「……あれ?」
誰も来ない部屋の片隅に転がっていると、ふいにどこからともなく声が聞こえた。誰かが来たらしい。そして、誰かが僕に気がついたらしい。
誰だろうか。整備士かもしれないし、そうじゃないかもしれない。どっちにしたって僕はもう壊れきっていて、修理も出来ないくらいに『オシマイ』なのだけれど。
そんなことを思っていると、ひょいと僕の体は浮き上がった。抱き上げられたらしい。
来たのが誰なのか、このとき初めて僕は知った。
この場所において、僕や僕の同類と言葉を交わせる数少ない四人の中の一人。
僕なんかより、よっぽど大切な人たちの一人。といっても人間じゃぁ、無いけれど。人型をとっている、僕らの同族なのだけど。
「…君、壊れかけなの?」
「…まぁ」
「……直らないの?」
「…はい」
「………うぅぅ」
「泣かないでください」
そして、とても弱い人だ。
こんなことで泣かないで欲しい。僕の代わりは何体でもいて、故に悲しまれる道理なんてどこにもあるわけがないのだから。
しかし彼はとても悲しそうだった。
「でもでも…ほら、やっぱり悲しいじゃないか」
「僕の代わりくらいいくらでもいますよ」
「でも、僕が知っているのは君だもの……君がいなくなったら悲しいよ」
「……そうですか」
僕はそうとだけ呟いて。
「それでも、僕はもう壊れます」
先ほどより少し穏やかな気持ちになって思考を閉じた。
全てを失う前に、ぎゅっと抱きしめられた気がするのは、気のせいだかどうだか、だから僕には判然としなかった。
(2010/05/06)