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宿屋にて、カタギリは一人、腕を組んで『それ』と向き合っていた。
夜が遅いのに何人か、出て行ったメンバーが帰ってこない。ミハエルやネーナ、沙慈とルイスは帰ってきたので良いのだが、他の数人が帰っていない。
が、そんなことも気にならなくなるほど、目の前の『それ』について考えなければならないことがあったのだ。
確か、『それ』……黒い、鍵付きの本…は自分が買った。そこは間違いない。そして、ティエリアに渡した物だった。問題はそこではなく、どうしてこれを買ったのかが分からないことだった。
何かを調べるためだった気はする。とても大切な物についての何かで、その大切な物というのが物ではなくて者だったような。
一体、何なのだろうかコレは。
「さっぱり分からないねぇ……こういうときにグラハムがいたら、結構便利なんだと思うんだけどなぁ…」
きっとあの金髪の相棒なら、こんな疑問など無視して先に行ってしまうか、あっと言う間に疑問に対する回答を見つけてしまう。それに引き摺られて行くことが出来るなら、何と楽なことだろう。
まぁ、それも彼がいない今現在では無理な話だが。
やれやれと首を振って、カタギリは本を手にとってじっくりと眺める。
とりあえず、手がかりはこれだけだった。
「うーん……どうしたものか…」
「おーい、カタギリ」
「ん?あぁ、君かい?」
「飯だとよ」
ノックをせずに扉を開きいて、くいと親指と食堂を示したロックオンは、しかしそのまま室内に入ってきた。ちゃんとドアも閉めて。
「……なぁ、ちょっと訊きたいんだけどな」
「何かな?」
「コレに覚えあるか?」
そう言ってロックオンが投げた小さな銃を受け取り、カタギリは促されるがままに断層の中にある銃弾を確認した。幾つか実弾がある中に……真っ白な、良く分からない銃弾が入っていた。これも実弾ではあろうが、他の物とは明らかに違う。
「いや……ということは何だい?君もこれがあると知らなかったのかな?」
「あぁ、有り体に言うとそうだな。さっき銃の手入れをしてて気付いたんだ」
「……今の今まで、気付いていなかった?」
「そういうこと」
頷くロックオン曰く、この銃弾は入れた覚えも入れられた覚えもない物なのだという。いつの間にか、そこにあるのが当然なのかのように入っていた、と。
正直、それは単なる気のせいではないかと笑いたくなったが……先ほどの、自分の本に対する思いがあるのでそれも出来ない。否定できるだけの根拠が、今の自分にはなかったのだった。
「何なんだろうねぇ……記憶がポッカリと穴あきになった気分だよ」
「穴あきか……言い得て妙だな」
「一体、何を忘れているのやら」
とても大事な物、であるのは分かるのだが。
どうしてもその続きは出てこなかった。