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というわけで本日はAnother Story。
おっしゃドライお帰り!ということでドライの話。
…にしてもドライは、ドライのままでいいんだろうか。リィアンに解明しておくべきだろうか…。
失う、というのはどういうことなのだろう。
それはあまり分からない事だった。実感がないというか、実感を感じようがないというか。何せ、自分たちは死ぬことがない身なのだ。従って、その範疇の中のみでコミュニケーションを続けるなら失うことは無い。死なないから。
一番上の兄は四年前に本体を失った。綺麗に散った赤い粒子が印象的な最後で、しかし、それでも兄は未だに健在だった。死なないから。所謂『心は死なない』という状態だ。空だが死んでも心、つまり精神は死なずに残る。それは失わないという意味ではとても素晴らしいことだと思う。
けれど。
けれど実感が湧かない、実感を持ちたいと思うときには、あまりに邪魔な事実だった。
ねぇ、と自分を操縦する『少女』に声でない声で呼びかける。
失うというのはどういう事?
取り返しの付かない、何か?
答えなど望んではいない。こちらの声が彼女に届くことはないし、そもそも他人から答えをもらっても意味がないのだ。
教えてもらうのではなくて、自分で知りたいのである。
「ねぇHARO、HAROは何かを失ったことはある?」
「あぁ?俺?」
「うん。あ、あったとしても、だからって『失う』のがどういうことかを教えてくれたらダメだからね。絶対に」
「なんだソレ」
呆れたように言うHAROはそれでも、そうだな、と呟いて腕を組んだ。
「自覚がねーけどさ、何か記憶が無いんだろ、俺」
「……あ、そういえば」
ソレスタル・ビーイングに未だ残るオレンジ色のハロ。彼はHAROのことを『兄』と呼んだ。HAROには覚えがなかったというのに、ハロは迷わずHAROを『兄』と呼んだのだ。
それは恐らく真実だろう。
ならば、HAROは記憶を失っている、ということになる。
「そっか……」
「まぁな。けどな、勘違いするなよ」
「え?」
「俺はそれでも別に良いと思ってる」
チラリと、HAROは座ったままにネーナを見下ろした。自分たちは精神対の状態で、ネーナを挟んで向かい合って座っていたので、リィアンも同じように彼女を見た。
不思議だ。一応は起動しているのに本体に完全に精神が入り切らなくても、機体が動くなんて。それは恐らく今がフル稼働中ではないからだろう。『リィアン』という外装を外せば『ドライ』が現れ、その時にはこんな風にコクピットの中で座っていることなど。
「俺の場合は喩えそれを失っていたとしても、お前達と一緒にいることが出来たからな。あまり喪失感は感じていない」
「埋める物があったってこと?」
「そういうことだな」
「……でも、それなら」
笑みさえ浮かべて留美の元へと向かおうとするネーナを見やり、リィアンは悲しくなった。彼女には。
「ネーナ、『失った』のに埋める物が無かったよね」
「……だな。だから四年前から変わらないんだろ、コイツは」
「………うん」
喪失は穴だ。ポッカリと空いた穴。
それはいつしか楔となって、人の歩みを食い止める枷となる。人は、喪失を乗り越えなければ前へ進むことが出来ない……この四年間で、とてもよく分かったような気がする。
もちろん、彼女がやったことは良いことばかりではないし、客観的に見て悪いことばかりだろう。裁かれるべき人々のリストの中に、ネーナの名前も挙がっている。それは、さすがのリィアンも否定できない。
けれども、思うこともある。
せめて一歩くらい先に進ませてあげられれば良かったのに。
そうすれば、そうしなくては、彼女は己の所業について考えることも出来ないだろうに。
何のための彼女の道具かと、リィアンは情けなく思った。道具のくせに使い手のためになることが出来ていないなんて。今もほら、自分という存在のせいで彼女にさらなる業を負わせようとしている。前に進ませるどこか、そんな。
「HARO、私、一つ気付いた」
「何だよ。言ってみろ」
「私が失えるとしたら、一番失いやすいのはネーナとHAROだね」
「……分かり切ってるだろ、それ」
「うん。ちょっと、思っただけだから」
もしもHAROを、ネーナを失ってしまったとき、自分はどうなるのだろう。
多分、ネーナって次はアリーさんの所に行くんだよねぇ…。
そしたらリィアンとアルケー、兄妹対決だよ…。