[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
272
あぁ、これってどうするべきなんだろうと、アレルヤは内心冷や汗を流しながら現れた二人の月代を眺めていた。いや、いつか来るとは思っていたし、彼らからは見えない場所に『居る』のだから心配することも無いだろうが、それでも、実際にいるのといないのとではえらく感じが違う。
とりあえず思うのはガラスケースを割ったのは徒労だったらしい、ということだった。さっきこっそりとハレルヤと一緒に割っておいたのだが、自分たちの思ったように『泥棒あるいは強盗が入った』のだと考えてくれたら良かったのに。
なかなか世界とは上手くいかないものである。
「…ね、世界って言うのは基本的に君の領域の話だし、君がどうにか出来たりしないの?」
「無茶言うな。てか、世界で起こる事象はどっちかってーとお前の方だろ、専門」
「…………………うん、いやまぁそうなんだけど」
そこを言われると反論できなかった。
はぁ、と息を吐いてアレルヤは今の自分たちを思った。
ハレルヤは身に『世界』を顕現させた。のだけれど、そうといってだから何だというわけでもなく。ハレルヤはハレルヤ。それだけなのだった。つまり、自分たちにとってそれは何を買えるための要因でもない。せいぜい、今まで知らなかった記憶が思い出せるようになるくらいのものだった。あとは力の底上げか。しかし本当に、ただそれだけ。
そして、自分もまた。
「あの二人の月代、帰ってくれないかなぁ直ぐに……見つからないと知っていても不安だよ、この状況って」
「無理じゃねぇ?何か犯人の手がかり見つけるまでは帰らないって態度だぜ、あの女」
「偽の手がかりを作っておくべきだったかな?」
「ンなの今更だろ。考えたところで何も変わらねぇよ」
どこまでも正しく聞こえるハレルヤの言葉だが、それが自分たちに当てはまることではない。そして、そこを理解した上で言っている片割れもなかなかの物だと思う。
過去の改変なら、可能だ。アレルヤにならば可能なのである。
だが、それはとても大変な作業であり、そう手軽に出来る物ではない。
だから結局、出来ないのと変わらないのだが。やろうと思えばいくらでも出来るのだと言うことも、忘れてはならない。
「あー、もうこれどうなってんの!?何でどうしてガラスが割れてるのーっ!」
「ヒリング、いい加減に帰るべきでは…」
「えぇ帰るわよ!ただし何か情報ゲットしたらね!」
「…ムキになっているな」
「なりもするわ!このまま帰ったらリヴァイヴに呆れられるもの……っ」
目の前で繰り広げられる会話に苦笑しながら、やっぱり心臓に悪いなぁと息を吐く。この場所、自分たち二人がいる場所が彼らの目の前だとしても、彼らが自分たちを見ることが出来ないようにしているのだから問題ないのは分かっているのだが。
「……ハレルヤぁ…もう僕ダメかも知れない……」
「心臓に悪いのは認めるけどな、お前ちょっと弱すぎじゃね?」
「弱くもなるよ……この姿は見られたくないから余計に」
「姿……あぁ、成る程な」
納得した、と頷くハレルヤに、アレルヤは黙って身を見下ろした。
少女物の衣類。これはリジェネによって着せられたもので、子供の姿を取っているこの身には似合わないこともないのだろうが……アレルヤの性別は男で、実際は二十代なのだから、これを見られるのが恥ずかしくないわけもない。先ほど全員集合していた時は、それどころでなかったので意識が回らなかったが。
着替えたい、と呟けば作り替えればいいだろ、と片割れの声。
全く持ってその通りだった。
「でもね、ハレルヤ、僕はデザインとかあまり得意じゃないと思うんだ」
「デザイン凝らなくても普通にTシャツで良くねぇ?」
「……あ、それもそうか」
「お前、やっぱどっか抜けてるな」