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建物の曲がり角を曲がって、ばったりと出くわしたのは見覚えのある黒髪。頭のてっぺん辺りの髪が一つだけ上へはねている人形。
エクシア、だった。
あまりに突然の再会に驚いていると、エクシアの方も驚いた様子でこちらを見ていた。彼にとっても現状は予想外だったらしい。エクシアと共にいた誰かはキョトンとこちらを見ており…現状の理由が分からないらしく、こちらはこちらで戸惑っている。
しかし、そんな躊躇いもなく反応をするモノが一人。
言うまでもなくセラヴィーである。
彼はにっこり笑顔で口を開いた。
「やぁ、エクシアにケルディム。どうしてここにいるの?もしかして二人で散歩とか?珍しいねぇこの二人組。エクシアとダブルオーとか、デュナメスとかケルディムなら分かるんだけどなぁ……本当にどうしてこの組み合わせなのさ?」
相も変わらず、相手が変わっても変わらない饒舌さ。
答えたのは、ケルディムと呼ばれた初対面の人形だった。
「あのな、セラヴィー、お前がいないせいで問題が起こってる」
「問題?僕何かしたっけ?とくに悪いことは何もやってないと思うんだけど、これってもしかして僕だけの思いこみだとか?」
「お前が自由行動しすぎるからな、ヴァーチェが怒ってる」
「……帰りたくないなぁ、それ」
困ったようにセラヴィーは笑った。
その気持ちは、刹那にも何となく分かる。ヴァーチェとは少しの間だが関わり、怒らせたらかなり危険なタイプに思えたのだ。ちなみに自分が知り合った四名の人形のうち、一番怒らせても被害が少ないと思えたのもヴァーチェだが。
エクシアやデュナメス、キュリオスはあまり本気で怒りそうにもない。そして、そういう対象に限って怒るととてつもなく危険なのである。
そうやって考えると、怒ると最も怖いのはキュリオスかもしれない。
怒って……と、その言葉で刹那はふと、まだ祖国にいたときのことを思い出した。
昔、マリナが国宝の首飾りを盗もうとした盗賊に切れたとき……あれは酷かった。悪いことをしたはずの盗賊の方が哀れに思えるほどに酷かった。
最終的に盗賊は心を入れ替え、国の国宝は守られたのだ。今ではその盗賊は、マリナの城で衛兵をしている。理由は『マリナを怒らせる哀れな犯罪者を減らす』ためだそうで。
なかなか他人思いの盗賊だった。
などと刹那が昔話を思い出している間も話は続く。
エクシアが腕を組んで、息を吐いた。
「だが、お前が帰らないことにはヴァーチェの機嫌も直らない」
「分かってるよ、エクシア……でもね、やっぱりねぇ…嫌だなぁ…折角探していたヒトにも会えたんだよ?今の都じゃとっても珍しいヒトさ」
ねぇ?と意味ありげに上げられた視線に、刹那は思わず顔を逸らした。目を合わせてはいけないような気が何となくしたのだ。厄介事はごめんである。
すると、ちょっとばかり落ち込んだ声音が耳に届く。
「…刹那までそういう態度取るの?僕、結構傷つくんだけどなぁ…」
「嘘を吐くなよセラヴィー。お前、そういう殊勝なキャラと違うから」
「ケルディム、こういうときはそうだとしても合わせるモノだよ」
「いや、やっぱ間違いを正すのが正しいあり方だと思うぜ」
そこは確実にケルディムの言うとおりだろう。
だが、そうは思えないらしいセラヴィーは不満顔である。チラリと見た。
「正しいって……君も酷いね大概。僕に優しい人って、何でどうしてこんなに少ないんだろうね?僕はとっても悲しいんだけれども」
「お前のキャラが原因だろう。それ以上でも以下でもない」
断定するエクシアの言葉。
その通りだと、刹那は頷いた。