チビスターズ第五話 ⑧
とにもかくにも、何とか無事に昼食は終了した。
その事に安堵しながら、アレルヤはちらりと窓の外の景色を見ていた
今、乗っているのは観覧車。遊園地で乗る、一番最後の。
ジェットコースターには、結局乗ることはなかった。時間はあるにはあったのだが、ティエリアがそこへ向かうのを許さなかったのだ。具体的にどう許さなかったかと言うと、行こうとしたハレルヤの後頭部を鈍器(花が咲いている土入りプランターとも言う)で殴りつけたのだ。
確か、その時に言った言葉は「そんな下らない物で、俺の楽しみまでの時間を延ばすな」で、「ティエリアも遊園地を楽しんでいることを認め始めたんだな……」とロックオンが言ったせいで事態は悪変。二人目の犠牲者が出ることとなった。ちなみに凶器は片割れの時の物と同様。別の物に持ち変えるのが面倒だったらしい。
……とまぁ、そういうことで。
広いとは言えないが狭くはない観覧車の一つの部屋の中、いるのはアレルヤ、刹那、ティエリア、フェルトだった。気絶中の大人二人はベンチに置いてきた。一人くらいは意識がある誰かが残った方が、と提案はしたのだけど……結局、こういうことに。
参加したくても出来ない二人に、ちょっとした罪悪感。
「何だか悪いな……」
「あの二人のことか……?…気にするな。志半ばで倒れたが、おそらく悔いはない」
「…ハレルヤ辺りは、悔いの変わりに殺意を持ってそうだけどね……」
刹那の言葉に力なく笑う。絶対に間違っていない自信があった……悲しいことに。
「フン……ならば返り討ちにするまでだ」
窓の外に視線を向けながら、不敵に笑うティエリア。
…ダメだと思った。絶対にハレルヤとティエリアの戦いを引き起こしてはいけない。もし起こってしまえば被害は広がり、彼ら二人だけでなく他の誰か(最有力候補:ロックオン)まで巻き込まれることが容易に想像できる。
「ティエリア・アーデ、たまにはその凶暴性を隠してみたらどうだ?」
「凶暴性ならハレルヤの方だろう。俺が行うのは正当防衛だ」
「どの口で言っている……?」
ほとんど日常となった二人の言い合いに苦笑しながら、先ほどから会話に参加していない少女の方を見やる。
フェルトは、眠っていた。
「遊び疲れたんだね……」
ほとんど一日中遊ぶなんて、自分たちにはそうそう行える事ではない。今回の事はアレルヤと刹那が小さくなったこと、それがキッカケで起こった出来事である。つまり……小さくならなければ、遊園地にみんなで来る事は無かっただろう、ということ。
フフフっ……と笑い、再び外を見る。
先ほどとは、全く違う景色が飛び込んできた。
おそらく頂上まで登ってきたからだろう、先ほどよりも遠くが見え、地上にある物はさらに小さく見えた。それでも何となく、あそこが待機場所だろうなというのは分かるのだけど……にしてもやはり。
「……凄いな」
ガンダムに乗って空から見なくても、観覧車乗ったら地上を見下ろすことが出来る。それも、とても簡単に、平和的に。
当たり前のことだったが、初めて観覧車に乗るアレルヤにとって、それはとても素晴らしいことに思えた。ここが『遊園地』という事実が、その思いをいっそう輝かせる。
「刹那、ティエリア…外見てみてよ。凄いよ?」
「……あぁ。遠くまで見通せるな……」
「………もっと大きな観覧車はないのか?」
アレルヤ同様に感動しているらしい刹那と、何やら次のプランを立てているらしいティエリア。……刹那はともかく、ティエリアはまだ満足ではないらしい。この調子だと、さらに高い…いや、一番高い観覧車を調べ上げて行くのだろう。
一人で行くのはどうだろう…と思い、口を開く。
「ティエリア、改めてどこかの遊園地に行くようなことがあったら、」
「…分かっている。君を誘えばいいのだろう?君なら大歓迎だ」
クスリと笑って、アレルヤは続けた。
「そう?…楽しみにしてるよ」
「……………………降りていく」
「クルクル回るんだものね…何だか残念だな…」
「一番残念な思いをしているのは、フェルト・グレイスではないか?」
「寝ているからな」
「……起きてるよ」
「え、熟睡してたはず……いつの間に!?」
「さっき。頂上の辺りで。ちゃんと風景も見た」
ロックオンとハレルヤには申し訳ないことをしたと思ってます。