「ヒリングー、このコップ持って行ってー」
「あ、了解。って…ちょっとリジェネ!何先につまみ食いしてるのよ!」
「良いじゃないかこのくらい。ねぇブリング?」
「……いや、マズイと思うが」
「というか貴方はどうして座ったままなんですか、リジェネ・レジェッタ!リボンズは良いとしても、貴方が座っていて良いというコトは無いんです!」
「えー?不公平じゃない、それ」
良いじゃん別に、とリジェネは心の中で呟いた。
アレルヤと一緒に夕食の準備をしているのはリヴァイヴ、ヒリング、ブリング、デヴァインの四人。リボンズは何となくイノベイターの大黒柱のような存在に収まっているから座って待っている。そして、動くのが正直に白状すると面倒だった自分も、また座って待っていた。
まぁ、それだけしか理由があるわけではなくて、五人も準備に回っているのなら別に六人目は必要ないだろう……という思いもまた、あったわけなのだが。
そういうわけなので。
「ま、僕は動く気無いから頑張って」
「リジェネ……貴方って人は……」
「人じゃないもん。イノ…」
「リジェネ、ちょっとそっちのフォーク取ってくれる?」
「え……あ、うん。はい」
言われたとおりに一纏めにしてあったフォークの内一つをリボンズに渡しながら、リジェネは少しだけ冷や汗をかいた。危ない。あのままではアレルヤにリジェネたちがイノベイターであると伝えてしまうところだった。CBと敵対している時点で完全に印象が悪いであろう『イノベイター』であると、もしも彼に知られたら……想像するだけで嫌だ。嫌われてしまいそうな気がする。
成り行きというか興味本位で連れて帰ったと言っても間違いではないアレルヤだったが、リジェネは、あの時の自分の判断は間違っていないと思っていた。自分が楽しいし、その上他の皆もどこか楽しそうだったから。
だから、この状態でアレルヤに嫌われるのは本当に致命傷。
視線でリボンズに礼を言うと、バラされて困るのは僕も同じだから、と彼の意識が伝わってきた。彼らしい物言いかも知れない。
そんなこんなで騒いでいる間に準備は済み、全員が食卓に着いた。
「ね、もう食べて良いの?」
「良いよ。待たせてゴメンね、リジェネ」
「アレルヤ、このような相手に謝る必要はどこにも。手伝いさえしていない相手ですよ?」
「リヴァイヴに同感ー。一人だけ楽しちゃってさー」
「…リボンズは?」
「俺たちのリーダーだからな。そのくらいは免除されて然るべきだろう」
「そういうことだね。リジェネ、次からは手伝いなよ」
「……何か凄く不条理」
どうしてリボンズは大丈夫で自分はダメなんだろう。シチューをスプーンで掬いながら思う。楽をしていたのは彼も一緒だというのに。
そこがデヴァインの言うように、リーダーか、リーダーじゃないかの差……ということか。……やっぱり不条理だった。
次からは手伝わなければいけなんだろうかと憂鬱になっているとき、それは起こった。
『リジェネ・レジェッタ!』
「ん……?」
脳内に、知った声が響いたのだ。
『あれ、ティエリア珍しいね。君から話し掛けてくるなんて。どうかした?』
『どうかしたも何もない!君だろう!?アレルヤを拉致ったのは!』
『えぇ?何で僕がやったと思うのさ?』
『この場で「アレルヤが拉致られたって本当?」と聞き返さない点で、もうその事実は僕の中で確定したがな……敢えて言うと、犯人が君以外にいないからだ』
『そうなの?』
『僕そっくりの誰ががいたとクルーに何度も聞かされた。君以外にいないだろう』
『だよねー。あ、僕夕食中だから会話おわりね。また明日』
『ちょっと待っ……』
制止の声が最後に聞こえたが答えず、リジェネは意図的に彼の声を意識的に排除した。そのくらい、やろうと思えばいくらでも出来る。
「……リジェネ、どうかしたの?食べる手が止まってるけど…」
「あ、気にしないでアレルヤ。ティエリアと脳内会話してただけだから」
不思議そうにこちらを見るアレルヤに答えて、リジェネは食事を再開しようとして……ぴたり、と手を止めた。
……何か、言ってはいけないことの一つを口にしてしまった気がする。
「……脳内会話?ティエリア…と?」
…本当に言ってた。
あぁどうしようと天を仰ぎたく思っていると、耳に届いたのは明るい声音。
「もしかして、リジェネってティエリアと仲良しなのかい?」
「え?」
「だから脳内で会話できるとか?」
「えぇと……うん、まぁ、そんな感じかな」
実際は違うが……そう思ってくれているなら、わざわざ正す必要はないだろう。
実際は仲が良いとかそんな物じゃないですよね。