「自警団作るのは良いんだがな、名前はどうしようか」
「名前?自警団のままで良いんじゃないですか」
答えながらもGは訝しんだ。突然一体何を言い出すのだろうか。
そもそも何故か『作る』などと言っているが、既に作られてだいぶ時間が経っている団体だ。その上今の今まで名前の『な』の字すら出てこなかったというのに、今更何を考えてそんな事を言い出すのだろう。動機が謎ではあるが、ともかく、これまでずっとそれでやれてきたのだから、これからだって必要はないだろうというのが自分の結論だ。
対して幼なじみはと言うと、どうやら自分の結論に感づいたらしく、ムッとしている。
「名前は大事なんだぞ。その組織の看板のようなものなのだからな」
「へぇ…案外マトモな意見ですね。てっきり俺は、ふと思いついたからなんていう理由かと思ってましたよ。アンタのことだから」
「……」
「…どうして顔を逸らすんですか」
す、と視線を明後日の方向にやった彼の挙動に、目を細める。そんなこととは推測して……否、解っていた。でなければ『な』の字すら出ていなかったこのタイミングで、こんな事を言い出せるわけがない。
故にGにとって気にすべきは動機の他に別にあった。
もっともらしい理由について、だ。
「…ていうかですね、その、看板だとかどうとかっていう理由は何ですか。いつものアンタはそんなモン気にしないで勝手に実行するでしょう。理不尽に」
「D・スペードが考えてくれたんだ」
「…デモンが?」
「組織に名前を付けたらどうだろうとアイツに言ってみたらな、直ぐさま賛同をくれたぞ。その上、お前対策にと策すら授けてくれた」
「…そーですか」
その時の光景が目の前にありありと現れるような気がして、Gはため息を吐いた。
デモンもデモンだが、コイツもコイツだ。
どうして周りにはこんなのしかいないのだろうかと、他のメンバーにもつらつらと思考を彷徨わせている間にも、幼なじみは世界で一番良いことがあったのだと言わんばかりの表情でうんうんと頷いていた。
「それにしても直ぐさま話に乗ってくれるとは、D・スペードもなかなか良いヤツだな。これならこの間の裏切りを許してやってもいい」
「…裏切りってアレ、アンタのケーキをアイツが勝手に食っただけじゃ、」
「だけとは失礼だな。充分に酷い裏切りだろうが」
「…あぁハイそうですか」
かなり真面目に反論してくる彼に、どっと疲れが出たGだった。
反論するのも面倒だ。あんなの、勝手にデモンがコレのケーキを高笑いしながら見せつけるように食べていただけではないか。
こんなリーダーの姿は一部を除いて誰にも見せられないと、Gはこれからも右腕として色んな意味で頑張っていこうと決意を新たにした。ちなみに一部とは、こんなのを友人として認めている少数の例外たちのことである。
しかしそんな自分の内心に気付くこともなく、彼はでな、と話を戻した。
「実は既に名前の案は出てるんだ。というか俺が考えた」
「どんな名前ですか?」
「ボンゴレだ」
「…ボンゴレ?」
「ほら、日本にいるだろ、雨月。アイツの名字がアサリだからな」
こちらの言葉に訳せばボンゴレだ。
そう言って笑う彼には悪いが、Gは怖気が走るのを止められなかった。
雨月の実力は認めている。認めざるを得ない程に彼は強い。だが……それとこれとは話が別だ。あんなヤツの名前を組織名にするなんて、自分からするとゾッとするような話なのである。彼とはソリが(一方的に)合わないが為に。
自然、言葉は荒れ、幼なじみに対する幼なじみとしての態度が、出る。
つまりため口。そして遠慮のない態度。
Gは胸ぐらを掴み上げたい衝動を抑えながら彼に詰め寄った。
「ざけんな!認められるかンな理由!」
「どうしたんだ、G?メッキが剥がれてるぞ。敬語はどうした」
「そんなん知るか!いいか、とにかく俺は『ボンゴレ』なんて名前認めねーからな!つーかそんなん普通は誰も認めねーよ!」
初代である彼ならともかく、だ。それだったら自分だって納得したかも知れないが。
そんな常識的なハズの言葉だったが、彼の中の『常識』は全く別の物だったらしい。
「…じゃあ、誰の名前なら良いんだ?」
「……」
本心から不思議がっているその言葉に、Gは一気に脱力した。誰の名前から取る必要も無いのだと言ってみても、きっと今の彼には届かない。誰よりも長く彼と共にいるせいで、既にその結末を悟ってしまったのだ。
というか、ハッキリ言うと馬鹿馬鹿しくなった。
「…もう好きにしやがれ……」
「初めから俺はそのつもりだぞ?」
「……」
かくして。
彼が立ち上げ規模を大きくしていったその組織の名は『ボンゴレ』となった。
こんな理由だったら本当にショックですね。
そして何気に出てる初代霧。