「にしても、どうしてマーモンとルッスーリアが無料貸し出しになってんだ?さっぱり分かんないんだけどさ」
「色々あったんだぁ…てーか武、お前いつまでここにいるつもりだ」
「んっと、気が済むまで?」
「帰れ」
「そりゃ酷いのな、ザンザス」
言って、山本はいつものように笑った。
マーモンを獄寺が引っ張り、その二人を連れて去っていった綱吉だったのだが、何故だかその中で山本が残った。ディーノが残ってしまったのは、その時には未だに雲雀からの猛攻を食らっていたのだから連れ出しようがなかった、という事があるので納得は……したくなかろうと、出来なくはない。
なのだがしかし、こいつが残ることだけは全く説明が付かない。
どうせなら全員連れて帰れ、その方がヴァリアー本部から騒々しさが消える。などと思いながらも疼く右手押さえ、ザンザスは山本を見た。
「何が酷いのか言ってみやがれ。ここはテメェのテリトリーじゃねぇんだよ」
「んー、それは認めるけどなー。だからって、いて悪いって事にはならないと思う」
「なる」
と。
そう答えたのは雲雀だった。
彼は小さいながらも鋭く、小さいくせに敵意と殺気に満ちた視線を山本と、何故か自分にも向けて、トンファーを構えなおした。ちなみにディーノは床で伸びたまま、ピクリとも動かない。そんな馬を殴るのにどうやら飽きが来たらしい。
全く、いつまで経っても使えない馬だった。雲雀を黙らせておく事くらいなら出来るかと思っていたのに、十年経っても全然使いようがない。頑丈さくらいは増したと思っていたのに…少し、過大評価だったか。
などと思っているこちらに構わず、雲雀は、ぐ、と足に力を入れ…たかと思うと、いつも以上に素早い動きで山本の懐に飛び込んだ。
鋭い攻撃を辛うじてかわしながら、山本はこちらに助けを求めるような視線を向けた。
「わわ!?…っと、ザンザス!ちょっと助けて!?」
「…ふん、誰が助けるか。そのまま死ね」
「やっぱり返事はそういうの!?」
「それ以外に何がある」
一番良いのは雲雀と相打ちになることだが、流石にそれは望めないだろう。
ならば、とりあえず煩い雨の守護者を消してしまっていた方が楽だ。
それにしても……あの雲の守護者、やけに素早く動いている。速さだけだったら元の姿の時よりも速いのではないだろうか。そこは、体が軽くなったという点が強く濃く出ているという事かも知れないが。
しかし、代わりに一撃一撃の力は弱まっているようだった。たとえ技量が同じであっても、大人と子供では力の差は歴然としているのだし、それも当然と言えば当然だ。
この調子なら、山本とて雲雀をどうにか押さえることが出来るかも知れない。
…だがしかし。
ここには、雲雀以外にもう一人もいるのだった。
「……うわ!?…っと!」
突然床から伸びた火柱を避け、体勢が崩れた隙を突くように現れた雲雀の攻撃をどうにか受け止め、山本はもう一人の方を、ちらりと見たようだった。
「…クロームか!」
そちらにいたのはスクアーロと、未だその腕に抱かれているクローム。
彼女も確かに子供の姿になっている。故に足が速くなっていたとしても腕力は弱くなっているだろうし、戦闘には向かない。もっともそれは彼女が直接攻撃における戦闘を得意としている場合であって、幻術を使う彼女に姿の大きい小さいはそれほど関係ない。
そしてそんな、名前を呼ばれたハズのクロームは不思議そうに首を傾げ、顔を上げて再び首を傾げた。
「…スクアーロ、クローム、って、だれ?」
「んーっとなぁ…お前のあだ名?」
「じゃあ、わたし?」
「まぁ…そう言うことになる、かぁ」
「なら……えっと…そこの人、なにか、よう?」
どこまでも純粋に分からないのだと言っているような瞳で、表情で、実際そうなのだろうが、ともかく言葉を続けるクロームだったのだが、もちろん言っている間も幻術は絶え間なく山本を襲い、雲雀は幻術を巧みに利用しつつ刀を抜いている山本を追い詰めていた。
そんな状況で山本が何かを言えるわけもない。
だが、子供はそんなことはお構いなしだった。
「…スクアーロ、わたし、むし、されてる?」
「いや…あれは無視ってーか余裕がねぇっていうかなぁ…悪意はねぇから安心しろ」
「うん」
鮫の言葉に安心したように頷いたクロームは、次に、こちらを向いて…口を開いた。
「でも…あっちの人は……ちがうよね」
「…凪?」
「あっちの人は、たおしちゃわないと」
絶対に。
そう続けるクロームに、ザンザスは呆れた思いを抱いた。
本当に、姿が変わっても何も変わっていない。
たとえ記憶が無くても敵対行動は永遠に。
…凄い何か、敵とされてる人たちにとっては迷惑な話だけど。