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 自分を庇ってアリオスが倒れたとき、一瞬、キュリオスは世界が止まったように思えた。止まったのではなくて、実際は遅くなっただけ。そして本当は何も変わっていなかったのだけれど。少なくともキュリオスにはそう思えて、体も思うように動かずに。

 ずぼ、と音がしてアリオスの体から『核』が奪い取られ、その瞬間に魔法が解けた。
 気がつけば、リジェネに体当たりをかましていた。

 父の仇が持っているソレは、アリオスの物だ。
 アリオスの物を、父の仇が持っているなんて。
 そんなこと。

 絶対に嫌だ。

「……何のつもり?」

 冷たい声音が降ってくるが、それに構わずキュリオスはアリオスの体と『核』を抱きしめて俯いた。何のつもりかなんて訊かれるまでもなく分かり切ったことだったし、訊かれても答えられない物だったから何も答えられない。

「その『核』を元に戻したところでアリオスは動かないって、分かってるよね?しかるべき存在がしかるべき処置を施して修理しないと、二度と動かないって分かっているよね?その、しかるべき存在はいないのだということも、知っているよね?」

 降り続ける冷たすぎる事実に、キュリオスはぎゅっと目を閉じた。
 分かっている、知っている、理解している、忘れていない。
 修理を出来るのは父だけで、その父はもういないのだ。

 だからアリオスはもう目が覚めない。ずっとこのまま、目を閉じたまま目を開くこともなく永遠に、ずっとずっと。

 それでも、リジェネに持たれるのは嫌だ。
 自分でも驚く程に、嫌だった。

 答えようとしない自分に業を煮やしたのか、もういい、と吐き捨てるように言って、リジェネは力の行使を始めた。周りに散らばっていた小さな鏡が、鏡の破片がふわりと浮いていったのだ。多分、この後これらは自分の上に降り注ぐ。

 と、後で何かが動く感じがした。位置かららしておそらくヨハンあたりだろうか。隣にいた茶髪の誰かかもしれない。どっちにしろ、自分たちをどうにかしてくれようとしているのだと、見えなくても気付けた。

「キュリオス、アリオスをつれて逃げ…」
「邪魔しないで!」

 ヨハンの声に被さるようにリジェネの苛立ち混じりの叫びが響き、何かが肉に刺さるような音が音がした。アリオスに刺さったときとは違う、人肉に刺さったときのような、音が聞こえた。

 思わず顔を上げれば、小さな鏡が集まって作られた槍が突き刺さった、つい先ほど出会った異端の姿が、目に、映って。

 それから、自分の腕の中で身じろぎもしない半身を思い出して。


 ワケが分からなくなった。


 どうしてアリオスは起きないの?ヨハンさんの脇腹に刺さっているアレは何?リジェネが笑っている理由は?赤い髪の子はヨハンさんの妹なのか、目を大きく見開いて叫び声を上げているし。茶髪の人は素早く銃を出して、多分応戦しようとしている。
 自分は、何だか中に浮いている感じがした。

 何というか、そう、空っぽになってしまったような気がした。目の前でアリオスが、何よりも、アリオス倒れたときに。悲しみも出来ないで、そして。

 今、所有している『鏡』と、自分の何かが響き合った気がした。

 

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