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その、あの人の目覚めるような感じを受けて、アレルヤは困惑したように上を見上げた。
今、彼女の能力が発動した……ような、感じがした。
有り得ない話だ。彼女は既に、それこそ今の社会が生まれ落ちる前に、人間や異端が確固とした立ち位置を作っていない間に消えたのだから。
死んだ、のだから。
それを誰よりも、自分よりも良く知っているハレルヤの方をチラリと見る。アレルヤ以上に彼女と一緒に過ごす時間があった片割れが気付かないわけも無いし、気付いたのなら何らかの反応を表すはずだから。だって、彼女の死に目に立ち会うことが出来たのは、遠い昔の『彼』だけなのだ。
「……ハレルヤ?」
「……」
「…うん、そうだね。無理に言葉を紡ぐ必要もないね」
呆然とした様子である片割れを確認してからそっと視線を外し、アレルヤはキョトンとしているミレイナの方に目をやった。ミレイナは彼女の力の発動も何もかも分からないだろうから、自分たちの驚愕も何も見当付けることは出来ないはずだ。
さて、ミレイナには何と説明するべきだろうか?
まさか素直に『昔死んだと有る女性の能力が発動したのを感じて、それでこんな反応を起こしているのです』なんて言えるわけもない。言っても彼女は信じるだろうが、信じさせるのもどうかと思う。
あくまでミレイナは一時的な関係者なのだ。この事態が済めばどうにかして自分たちの街の方に戻して、再び普通の生活を送ってもらうような相手なのである。
それをどうして、不可解な現象に慣らさせるような事をする必要があるだろう?
答えは否、である。
そもそも、ミレイナの父であるイアンにも、母であるリンダにも世話になった事がある自分たちだ。しかもそれが何度も……とくれば、自然とミレイナを危険から遠ざけようと思う物である。恩を仇で返すつもりはないし、ミレイナ自身とも付き合いは長いから。
「……ハプティズムその1さん、ハプティズムその2さんはどうしたです?」
「えっとねぇ……何か、不穏な気配を感じた、っていう感じかな?」
「不穏な気配ですか……それは穏やかではないです…」
「まぁ、不穏、だしね」
不穏なのに穏やかだったら問題ではないだろうか。
いつものような困った笑みを浮かべて、アレルヤはミレイナに答えた。間違ってはいないが細部までは話していない答えだが、これが現状では一番の返答だろう。
問題は……と、次に目を向けたのはハロとHAROの方である。
この二人が、何かの反応を返さなければ万事問題はない。
何せ、この二人は彼女を識っているのだから。
「ハレルヤ…、そろそろ我に返ってくれないかな」
「ん……あ…あぁ、悪い」
「気持ちは分かるけど、僕から提案」
もう、落ち着く時間は十分とは言えないが、きちんと取れたはずである。いきなりの話で酷と言えば酷だろうが、それでも今の感覚に疑いようがない以上は作戦……というか今後の方針を立てる必要はある。
その辺りはハレルヤも分かっているようで、表面上は何とか普段通りに取り繕って頷いた。取り繕っているのが分かるのは、自分と片割れは互いに、思考の水底が繋がっていると言っても過言ではない繋がりを持っているからである。それで全ては通じる。
『…無理させてゴメンね?でも、ここの場合はミレイナもいるから』
『分かってるっての。俺がいつまでも呆けてるワケもにもいかねぇし』
そんな繋がりを駆使して思考をもって話し掛ければ、苦笑のような気配と共に帰ってくる『声』。ハレルヤも現状を分かっているようだ。
静かに微笑んで、なら大丈夫だねとアレルヤは言葉を紡いだ。
「ハロの探知能力を使おうと思うんだ」