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「お腹がすきましたね……」
「確かにそうだな。ずっと歩いていたから当然と言えば当然か」
「一度、帰りましょうか?」
あの後、不自然なまでに見つからないパーファシー家に訝しさを覚え、ソーマはグラハムと共に割と本気で捜索を続けていた。都の中とはいえ異端の力が完全に使えないわけでもないし、異端の力以外ならば振るえることは既に知っている。ならば、何らかの事件に巻き込まれている可能性も無いわけではない。
自分を捨てたあんな家、どうなっていようと関係ないと思う。
しかし一方で、かつて『マリー』であった時からの思いを断ち切れていないことも、理解している……というか、理解した。
だからこそ、ここまで気になっているのだろう。
一目見てみたいと思っているのだろう。
「…申し訳ありません、私のワガママで……宿に戻らなければならないのに」
「何を言っているんだ?ソーマ、君は私の弟妹として認定された存在だ、私のことは実の兄のように頼ってくれて構わない。代わりに私も君の兄として懸命に努力しよう」
「……そちらは遠慮していただきたいのですが」
こんな兄がいたら本気で困りそうだ。暴走しやすく人の話を聞かず、操縦できるのは恐らくカタギリ以外に存在しないグラハムなんて兄。
いたら、頼れることは間違いないだろうが。
そんなソーマの思いも知らず、案ずることはない、とグラハムは笑っていた。
「君と私の仲だ、遠慮などという物は必要ないよ」
「では謹んで辞退を…」
「はっはっは…まるでティエリアの様なことを言う」
あぁ、ティエリアもかつてこうやって断ろうとしたのか。様子からして全く伝わっていないようだが。となると……ハレルヤも似たような経験があるのかも知れない。アレルヤは、笑って受け入れそうな予感があるが。
何だかんだで苦労しているのだろう三名に今、心の底から労いの念を覚えた。
まぁ、一番大変なのは相棒のカタギリだろうが。
ハァと息を吐いている間にもグラハムは一人盛り上がって、バッと両腕を広げて、とても良い笑顔を浮かべて言った。
「そう言うわけで私たちは兄妹なのだからさぁ!腕の中に飛び込んでくると良い!」
「結構です」
「ふっ、その謙虚さも美徳だと言わせてもらうよ、我が弟妹」
「……それはどうも」
いつもは紳士的で普通の人なのに、一度スイッチが入るとどうしてこうなってしまうのだろう、この人は。しかもスイッチが入りっぱなしなのが、かなり相手をする身としては辛いものがある。
…やはりカタギリに敬服だ。
そんなことを思っていると、ふいに聞こえるクスクスという笑い声。
頭をめぐらしてみると、そこには藤色の髪の女性がいた。
その女性はソーマが見ていると気付くと直ぐに、こちらに寄ってきて軽く頭を下げた。
「ごめんなさい、とても仲が良いようだったから…つい」
「いえ、構いません…漫才のようだったでしょう」
「……ハッキリと言いますと」
「時にお嬢さん、お名前は?」
「あぁ、私はアニューと言います。アニュー・リターナー」
「私はソーマ・ピーリスです。こちらはグラハム・エーカー」
簡単な自己紹介を交わした後、そうだ、とアニューが手を打った。
何だ?と見ている中で、彼女が口を開く。
「よかったらお昼ご飯を一緒にしません?私たちの家に招待します」
「そんな……ご迷惑では…」
「全員集まったら結構な人数の家なので、一人や二人増えても変わりませんよ」
「では…お言葉に甘えよう」