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ミレイナは目の前に力なく倒れ伏している人形を見て息をのんだ。
その状態は、あまりにも酷い。胸には大きな穴が貫通して空いているし、その後軽く投げ捨てられたという体なのだ。
強いて良いところを挙げるとしたら、それは傷の状態ではなく、血の有無についてだろう。赤い液体が流れない人形だからこそ、目に見える状況はそれほど悲惨にも見えない。
だが、それは見せかけだけの事実である。
どうしたら良いのだろうと、その人形の傍らに屈みながら思う。
どうしたら良いのだろう。この人形はどうやったら修理できるだろう。
このままでは悲惨すぎるし、悲しすぎるし、酷すぎる。
何とかしてやりたいし、何かをしてやりたい。
そう、全てはこの人形のため。
この人形『たち』のため。
彼らを苦しめる事柄から、悲しめる事柄から出来うる限り救ってやらなければならない。それが自分の義務であり責務であり権利であり、使命だ。
彼らを作り出したこの身だからこそ。
『アリオス』を治して、『キュリオス』を悲しみから引き上げなければ。
「……!?」
そこまで思って、ミレイナはハッと我に返った。
今……自分は、何を思っていただろう?
「今…この人形さんたちの名前が直ぐに浮かんだです……?」
しかも、それだけではない。
先ほど……本当に思ったのだ。実感を伴って、それを思った。
自分が、彼らを作ったのだと思った。
そんな馬鹿なとミレイナは慌てて頭を振った。そんな事があるはずがない。自分が手がけたのなんて、せいぜいがハロとHAROくらいのものだ。こんな立派な人形なんて作った事も、触った事すらない。
ではあの、実感を伴った想いは何だったのだろう。
ワケが分からないと服の裾をギュッと握る。
「何なんですか……っ…突然都に飛んできた事と言い、何もかもが分からないです……っ…………怖い、ですっ…」
何でワケの分からない状況ばかり繋がっていくのだろう。こんな非日常ばかりが連なっていくのだろう。これが『非日常』と分かった今、思うのはこの状況に対する恐怖以外の何者でもなかった。
そうして今更ながらに知る。
あぁ、自分はとても不安だったのだ、と。
説明をつける事が出来な以上今日ばかりに遭って、知り合いに会えたのは良かったけれど、それでもとても心細かったのだと、分かった。