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「これは……奇跡かもしれない」

 リジェネは現状と、目の前にあるソレに対してそう、呟いた。
 そうとしか形容できない。だって、まさか。

 あの人の体が、目の前に。

 精神体は抜け出ているから目は閉じられたまま、開くことも動くことも無い。それはいささか残念と言えば残念だが、今の自分たちの関係や力量差を考えれば幸い、と言えるかもしれない。

 そして……ここは。ちらりと辺りに視線を走らせながら笑う。
 ここは、月代の家だ。月代…というか、都を裏で支配する者たちの家。何度か自分も来たことがあるし、一応一員として記憶されているはずだ。

 何て幸運。
 何という幸運。

「けれど……」
 
 屋敷の中の気配をたどって、息を吐いた。
 いる、のだ。

「何で君たちまでここにいるんだろうね…」

 それは敵対した魔族と人間の気配だった。しかも二人とも、どうやってもこちらに寝返ることがなさそうだった。

 絶体絶命の状況で、よく分からない現象の二度目が起きてくれたのは幸いだったと思う。あのままだったら間違いなく消されていただろうから。さすがにアイツとあの人と、さらに人形などまで付け加えられ、ダメ押しとばかりに異端や人間が数名いたら、自分であっても無事で済むワケがない。

 だが、この状況もまた何とも言えないのは事実だった。
 はぁ…と息を吐いて、どうしようと考える。

 とりあえず彼の体はどこかへ置いて、自分が確保してしまうべきだろう。それに関しては…またあのパーファシーの家を使えば良い。念のためにティエリアにも、ダブルオーにも見られないようにこっそりと。

「でもそれが難しいと言えば…難しいんだよね」

 一人呟いて、腕を組んだ。
 何というか面倒。ばれないようにこっそりと入れることに成功したとしても、その後を隠し通すのが大変そうだった。そして、大変そうな事態はあまり好きな物ではない。のんびりと楽を出来れば、それが一番なのだ。

 まぁ、今回ばかりはそれは諦めるしかないだろうとは、思う。
 どうしようもないからと頷きながら、リジェネは椅子を引き寄せて腰掛けた。

 それよりも、今はあの現象に関して考える方が大切かもしれない。
 前回はともかくとして、今回は非常に助かった。だから良い、が、次回もそうだとは限らないのである。次回があったとき、今度は自分が危機に陥るかもしれない。

 だから、非常に困るのである。
 原因を知り、把握し、思うままに出来ればソレが一番なのだ。

「……出来るのかな…微妙な気がするんだよね」

 それでも、やらなければとは思うのだが。
 何せ、あの現象。

 現象が起こったときの状況を考えると、アイツにもあの人にもコントロールも何も出来ない、何かの力だろうというのが分かるから。

 もしかしたら切り札に、出来るかもしれない。

 

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