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番外編・6
その日の夕食は『王』の手作りで、今までのどの料理よりも豪華だった。その上、とても美味しい。文句の付け所のない晩餐となった。
流石、と私はスープを飲みながら思った。夕食……要らないと言ったのに、結局押されて押され負けて、こうやって三人と一緒に取ることになっていた。嫌というわけではないが、少々気恥ずかしい。
後でレシピか何かを教えてもらおうと、私は決めた。教えてもらいさえすれば、後は練習次第で味を近づけるくらいは出来るはずだ。これでも私は優れていると称されるのであろう人形である、味の判別も普通のヒトよりはハッキリ出来る。したがって、味を近づけることも可能だろう、きっと。
「あ、そういや…イオリア」
「何かね?」
「作るヤツらについて、少し注文付ける」
パンを千切りながら『世界』は欠伸をした。眠そうだが、昨日はずっと寝ていないとか言い出すのでは無いだろうか……よく見れば『王』の方も寝不足気味だし。こんな時間になれば、二人が睡眠を十分に取っていたかいなかったかは良く分かる。もしかしたら夜通し歩いて急いでくれたのかも知れないが、まずは自分のことが一番なのではないだろうか、こう言うときとかは特に。
体調でも崩したら大変だろうに。そんな心配をしながら私は、何も言わずに会話を聞いていた。作るヤツら、というのは私の弟妹となる子たちの話だろうし、ならば、私だって多少は情報を仕入れておきたい。
「八体、作って欲しい」
「八……とは、やや多くは?」
「それくらいで良い。中々揃い難い方がこっちは良いんだよ」
揃い難い方が良い…その言葉に、私は少しだけ眉をひそめた。弟妹たちが離ればなれになることが分かっているかのような言葉に、反発を覚えたのである。
それに気付いたのか、『王』が苦笑を浮かべて口を開いた。
「もちろん、離ればなれにならないのがベストなんだけどね…もしもの時ってあるでしょう?そうなったときの話だよ、これは」
「でも、」
「考えても見て?」
言い募ろうとした私の言葉を遮って、『王』は言葉を続けた。
私に言い聞かせるように、自分自身に言い聞かせるように。
「世界に対抗しうる力を持っているんだよ、彼らは。八人揃ったら、それが確実になる。君は一人でもそういう存在であるけれど、二つめが出来るのは僕らとしては……あまり、ありがたくない事態、というか、ね」
「『俺』がどうにかなる可能性が増えるワケだしな」
何でもないように『世界』も同意をし、私はその瞬間にワケが分からなくなった。本気で。だって、彼らが私の弟妹を作るように依頼していたというのに、どうして二人は、自分たちに不利になるような依頼をしたというのか。
正直、私の理解の範疇を越えている気がする。
だいたい、私は人の感情の機微というのが未だにハッキリとは分からないのである。だからたまに、お父様から苦笑混じりの指導を受けることもある。それは私が生まれたてであるから仕方ないと言えば、仕方ないのだろうけど。
「…『世界』は死にたいのですか?」
「いんや?単なる予防策を打っとくだけだしな、俺はやられる気はねぇよ」
「…ですが、対抗できるというのは」
「それくらい出来ねぇと、これからちゃんとやってけねぇってワケだ」
最低ライン、ということだろうか。『世界』を敵に回しても困らないほどの力を持つことが。だとしたら、それはとても大変なことであるように、私には思えるのだけれど。私もどうやら対抗できるらしいが、自覚はないからイマイチ分からない。実感も湧かない。
出来ればそのままが良いと思うのだけど。
自覚が出来る瞬間というのはつまり、私が『世界』をどうにかしたときだから。