[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
実験台とか言われて、もうこの二人しか浮かばないのは仕方がないと思います。
13.実験台
そこは、逃げ場のない牢獄。
言ってしまえば、奈落の底みたいな場所。
そこにいることに対しての恨み言は、言ったところで意味なんて無いんだと知っている。
「E-057、こちらへ来なさい」
「…はい」
その名前は、ラベルだ。
ここでは自分の存在なんて認められていない。個性も認めてもらえずに。顔くらいは覚えているのだろうけど、それも所詮は『モノの識別のため』なのだろう。
モノは一様ではないけど、とりあえずラベルでも貼っていないと何が何だか分からなくなるのだと、思う。知っているだけでも同類はたくさんいるから。だから、ラベルは貼られて区別が付けられる。
その程度の、それは識別番号だ。
決して、名前だなんて認めない。
それが……せめてもの抵抗なのかもしれない。
『甘い考え方だなァ?アレルヤ』
「……」
研究員の目の前に立ち止まったところで、片割れの声が聞こえてぴくりと肩を揺らす。研究員の方はそんな自分の様子を訝しく思ったようだったが、直ぐに興味を無くしたようだった。幸いなことに。
けれど、これ以上話しかけられれば大変なことになるかもしれない。驚いて、渡された薬を落としてしまい出もしたら大事だ。
だから、しばらく黙ってもらおうと思って心の中で止めるように言おうとした。
が、片割れの方が早かった。
ハレルヤはささやくように、嗤うように、アレルヤへと『毒』を吹き込む。
『優しい優しい、甘いだけの俺の片割れ。分かってんだろ?そんな抵抗は意味なんてねぇんだってことくらいはな。やるんなら徹底抗戦で行こうぜ?だから……』
一旦そこで言葉は切られ、そして。
再び、誘惑と共に言葉が滑り込んでくる。
『俺に体を明け渡せ』
その言葉に、思考に、選択に、結果に、アレルヤは世界がくらりと変貌してしまうような気がした。
そうできたら、どれ程までに良いことだろう。
難しいことを考えなくても済むし、頷いてしまえばそれで終わりだし、結果に責任を持つことすらハレルヤは必要ないと言ってしまうだろう。
それを選択すれば、全てから解放される。
楽になれる。
…けれども、だからこそ、アレルヤは頷いてはいけないのだ。
『…ダメなんだよ、ハレルヤ。それはダメなんだ』
『何でだ?アイツらも似たようなことはやってんじゃねぇか。アイツらは俺たちを殺しても良いって言うのに、俺たちはアイツらを殺してはいけないとでも言うのか?んなワケねぇよなぁ?そんな理不尽な話はねぇだろ?』
『それでもダメなんだ…』
誰かを傷つけて得る物が、良い物だとは思えない。思ってはいけない。
いけないんだ…と、服の端をギュッと握って目を閉じると、身の内から呆れるような気配を感じた。
そして、それは直ぐに獰猛な笑みを共にする気配になった。
『それこそダメだぜ?良いか、この世界は何もしなけりゃあっという間に終わっちまう世界なんだよ、アレルヤ。お前の甘さはいっそ美しいと呼べる優しさなのかもしれねぇけどな、それがあったところで生きる死ぬには関係ねぇんだよ』
『……それは』
『死にたくなけりゃ、相手から奪うしかねぇんだ』
何を、とは訊かない。訊くまでもなく分かる。
相手から技を、知識を、振る舞いを、富を、命を、何もかもを奪うこと。そうでもしなければ生き延びるなど不可能なことなのだと、彼はそう言っている。
それに、反論は出来なかった。
反論できるだけの材料はない。
それでも反論したいと思う自分は、やはり甘いのだろうか。
いつの間にか手渡された薬を眺めながらぼうっとしていると、再び聞こえる声。
『アレルヤ、お前は何も考えなくて良い。俺に全て任せれば良い。そうすれば俺はお前を守ってやれる。俺は生き延びることが出来る。俺は、奪うことを躊躇わねぇよ』
いっそ優しいと言える声音で、彼は。
『だから、俺に主導権を譲れ。その研究員は俺が殺るからな』
酷く、残酷なことを言う。
しかしアレルヤは、もう、頷くほかに対応の方法を知らなかった。
自分の出来うる限りでテレビの二人に近づけてみましたが…うん、近づき切れてないよね、これ。