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カティ・マネキン、というらしい彼女の事を見上げ、ダブルオーは彼女をどう呼んだらいいだろうと首を傾げた。刹那は初めから刹那と仲間たちも読んでいたし、コーラサワーは刹那が炭酸と呼んでいたからそういう類の呼び方で良いのだろうと思っているのだけれど。さて、彼女は。
結局、分からないことは本人に聞けばいいだろうと結論づけて、再び問いかけるべく視線を上げる。
「…何と呼べば」
「好きに呼んでくれて構わない」
「……好きに?」
それは中々の難問だ。自分で考えなければならない分、先にどう呼んでと言われるよりもハードルが高くなっている。
しばしの熟考の後、ポツリと、一つの答えをダブルオーは口にした。
「……大佐?」
「………何で君までそういう呼び方を…」
「…好きにと」
「あぁ、確かに言ったが。だからといって君までまねする必要はないんだぞ?」
「でも…」
短いし、呼びやすいと思ったのだけれど。
ダメならば変える必要があるなと、どう?と視線で問いかけると、普通の人間である彼女は諦めたように息を吐いた。
「…それで構わない」
「…ありがとう、大佐」
「大佐大佐、じゃあ俺も……」
「お前はダメだ」
「えぇぇ!?何でですか大佐…った!?」
「ダメだと言っているだろう!」
投げつけた紅茶のカップ(中身はない)を額に直撃させたコーラサワーは、だってぇ……と涙目で彼女を見ているようだった。
「だって大佐、俺にとって大佐は大佐ですよ?」
「だっても何もあるか!お前は私が軍を抜けたことも分かっているだろうが!」
「けど、やっぱり大佐は大佐なんです!」
「私は永遠に大佐だとでも言うのか!?」
「少なくとも俺にとっては!」
……こう言うときに、コーラサワーという人間の無自覚の恐ろしさをダブルオーは感じる。あそこまでダメだと言われて、どうしてそれでも押して押していけるのかと、本当に疑問に思う。
「昔からあぁいうヤツだ」
「…刹那」
「俺と一緒にいたときは、大人に逆らいまくっては蹴られ続けていたが」
投げつけられた紅茶のカップを素早くキャッチしていた刹那は、それをコト、と机の上に置いて腕を組んだ。目の先にあるのは、直ぐ側にいるカティ・マネキンとちょっと向こうにいるパトリック・コーラサワーの言い争いの光景か。
どうやら、彼女は『大佐』と呼ばれることに些かかの躊躇を抱いているようだ。それの理由が軍を抜けたからだけなのか、それ以外に何かあるのかはハッキリとは分からないのだが。それでも自分に『大佐』と呼ばせてくれるという彼女は凄いと、素直に思う。
…それは置いておいて、コーラサワーがそれでも延々と『大佐』呼びを続けていると言うことも分かった。
「…刹那」
「何だ?…あぁ、早く帰れと?」
「……」
違う、とダブルオーは首を振った。
あと少しくらいなら待つ。