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「悪い、刹那。やっぱ台所漁っても茶菓子は無かったぜ」
「いや……別に気にしていない」
「そうかぁ?ならいいけどよ…嬢ちゃんもゴメンな?」
「…別に」

 揃いも揃って、本当に愛想も無い返事だとコーラサワーは呆れた。もう少しくらい笑顔で、フレンドリーにしてみれば良いのに。そうすれば感じる印象なんて物も、結構変わってくると思うのだがどうだろう。

 しかしそれを刹那に求めるのは酷なんだろうと過去の彼の様子を思い出し、その彼の様子とあまり変わらない態度を取っているダブルオーを見る。
 始め見たときから、接点が全くない気がしていた二人だが、意外と反応はそっくりだ。

「…もしかしてよ」
「…?」
「そっちの嬢ちゃん、お前の娘とか?」
「違う」

 冗談交じりの言葉はあっという間に否定されてしまった。
 えぇ?と、それでも半分は本気だったのでワザと首を傾げてみせると、今度は刹那ではなくダブルオーの方が口を開いた。

「私はお父様の遺産」
「お父様?」
「イオリア・シュヘンベルグという名の人間の遺産」
「…誰だそれ?っていうか遺産、って?」
「炭酸、コイツは人形だ」

 その言葉に、一瞬思考が追いつかなかった。
 人形?彼女が?どこからどう見ても動いて生きている、完全に生物のように見えるこの相手が?……そんな疑問が次から次へと浮かんでくるのだが、同時に納得している部分が心の中にあるのも分かる。
 つまり、彼女はそう言う存在なのだろう。

「ってことは…そのイオ何とかってのは、人形作りの職人って事か?」
「そう」
「しかし……君のような精巧な人形を作っていて、私たちに名を知られていないというのはどういう事だ?優れた技師だったのだろう?」

 隣に立っていたマネキンが確認するように問いかけると、ダブルオーはそれで当然と言わんばかりに頷いた。『当然』が『優れた技師』に掛かっているのは、自然と理解できた。

「お父様の名は、お父様を知る人間にしか語れない」
「イオ何とかって?」
「書物にも記せない。記せたとしても、それを読んで意味有る語として認識が出来ない。出来るのは、お父様を直に知っている者だけ。あるいは、お父様の中の中にあった心を知っている者だけ」

 そこまで言い切って、ぐたりとダブルオーはソファーに身を預けた。先ほどまでは全然喋らなかったのに、これだけたくさん喋って疲れでもしたのだろう。
 刹那はそんな彼女をいたわるように頭を撫でた。

「つまり、イオリア・シュヘンベルグ、と呼べるのは」
「……直に知るものか…『記憶の継承者』だけ」
「…記憶の継承者……俺のような、か?」

 継承者、という言葉が何を指すのかは分からなかったのだが、そこは触れても分かるような説明が来るのかと疑問を覚えたので何も言わないことにした。何となく難しそうな臭いを感じ取ったのである。

 それよりも。
 今、玄関のドアが開いた音がした、気がしたのだが。

 それは、心の中に嫌な予感を運んできた。

 

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