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これの次で、この話は終了。でもまだ続く。



 妖の中でも特に強いとされる竜、鬼、蛇の三種族。
 それがこの街に揃ってしまっていると、何人くらいが知っているのだろうかと光秀を引き摺りながら政宗は思う。知らない方が幸運だろうと思いながら、同時に、知っておかなければその内に困ったことも起こりかねないだろうとも思う。
 まぁ、所詮はその程度のことだと自分は言う。元親も、多分だが光秀も。
 ただ、当事者以外の全ての存在は、それ程の事なのだと言うのだ。
 …やっぱり意見の相違はどうしようもないのか。
 そんなことを何となく考えながら、ちらと右隣を歩いている鬼に視線をやる。
「元親、コイツ持って帰ってくれるか?」
「…しゃーねーな。放っておいてまた厄介事起こされても困るか」
「こやつの起こす騒動、止められるのはそなただけだからな」
「どっかの誰かのせいで、止められんのが一人減ったお陰でね」
 元就の言葉に冷たい返事を返す元親。それに対して元就がさらに冷たい視線を送るために事態は悪化の一途を辿るだけ。
 それで当人たちは良いかもしれないが、生憎と二人に挟まれる形でいる自分としては遠慮したい事態である。
 さぞかしうんざりした表情を浮かべているだろうと思いつつ、息を吐いた。
「元就、元親、静かにしろ。コイツが起きんじゃねぇか」
「う…」
「むぅ…」
 途端に黙り込む二人。鬼も人間も、蛇の相手は嫌らしい。
 蛇は蛇でもとんでもなく性根の曲がった、根が元々悪い蛇だ、その気持ちは分からないでもない。竜ですら少々遠慮したいと思う相手だ。
 そしてそんな蛇、である。
 当たり前だが、このまま終わるわけがない。
「ふふふ…とんでもなく酷い言われようですねぇ」
「自業自得だろ」
「おやおや手厳しい」
 いつの間にか起きていたらしい光秀がそう言って、肩をすくめたのが彼の服の襟首を掴んでいる手から伝わってきた。それを確認した後に着物から手を放す。明らかに起きている相手を運んでやるほどお人好しではないつもりだ。そもそも、自分が運んでいたのだって厄介を減らすためだったのだし。
 突然に手を放したからか、そのまま地面に倒れ込んで後頭部を打ったらしい光秀は、それからフラフラと自分の直ぐ後ろに寄ってきた。
「痛いじゃないですか」
「知らねぇ。ていうか用もなく来たテメェが悪い」
「良いじゃないですか。暇だったんですから」
「暇なら妖のため人のために働いてみろ」
 その方が自分たちも平和で楽だ。
 などと思いながら口にして、振り返って後悔した。
 光秀は、実にいい顔で笑っていたのである。
「その様なことを私にしろと?」
「…まぁ、な」
「気味が悪くありませんか?」
「…チカ」
「悪い政宗。俺も今回ばかりは忌々しくてもアイツと同意見だから何も言えねぇ」
「…もとな、」
「我も同意見ぞ」
「……分かった。光秀、テメェはテメェのままでいろ」
「分かりました。喜んで従わせていただきましょう」
 …朗らかに言う光秀に敗北感を感じたが、気にしないことにした。実際、こうなることは言いながらも少しばかり想定はしていたので、不思議でも何でもなかったこともあって。
 何でこんなヤツと腐れ縁を結んでしまったんだろうかと過去の己を恨んでいると、クスクスという笑い声が……やはり、後ろから聞こえてきた。最近の彼のお気に入りは弱っている竜で遊ぶ事らしいので、これも有る程度は予測済みだ。自分がいる限り、彼は自分にちょっかいを出し続けるのだろう。
「しかし、竜が店の従業員とは。誇り高い竜が何をやっているのでしょうか」
「竜とか妖とか人間とか関係ねぇよ。アイツらは嫌いじゃないから手伝っただけだ」
「楽しそうなどとも思うておっただろう、政宗」
「まぁな」
「そうですか。ならば良いのかもしれませんが竜の同族…そうですね…例えばあの〈黒竜〉などにでもこれを聞かれたら、大変なことになりそうですね」
 〈黒竜〉。
 その二つ名が指す相手を思い、一瞬政宗は黙った。そういえば、最近彼とも会っていない。そろそろこちらに寄るのだろうか。そうやって同族と呼ばれる者たちの中で最も付き合いの長い彼のことを思っている間に、光秀は元就に向かって話しかけていた。
「毛利家現当主様には、そろそろ我々の『仲間』を返していただきたいのですがね」
「そうか。しかし残念ながら未だにそれはならぬな。しばし待つが良い」
「そうですか。では楽しみに待ちましょう」
 多分、何でもないように交わされているこの言葉たちこそ、何よりも敵意に満ちた物であるのだろう。
 そう思えるほど、冷たい響きをそれらは纏っているように思えた。








黒竜はあの人です。
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