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ちょっと事件が起きました。
突発的仮想物語 5.消えた二人
その日の夜。
刹那、ライル、アレルヤ、ハレルヤ、ティエリアの五名は、人気のない食堂で今日のそれぞれの授業風景や気付いたこと、違和感があったか無かったかなどを話し合っていた。理由は当然ながら、この世界のより深い把握のためだ。
ここが仮想空間の中だと分かったとしても、出方が分からなければどうしようもない。今までの仮想シミュレーションは何らかの課題があり、それをクリアすることで現実世界に戻っていたのだ。今回は特殊であって可能性は低いかも知れないが、その『課題』がある可能性もあるだろうとティエリアが言ったのである。
仮想シミュレーションとは、基本的にそう言う物ではないだろうか、と。
そこで必要となったのが『課題探し』である。
何か課題を解決しようと思ったところで、その課題が分からなければどうしようもない。だから大人しく状況に従いながら、同時に課題に繋がるかも知れない事柄を探していたのである。例えば、『違和感』などと言った。
だが。
「案外無いもんだな…違和感」
「確かにな…考えれば考えるほどワケが分からなくなりやがるしよ」
「あるとしたらガンダムの名前が出てこないってそれだけなんだけど」
「それを思い出すのが課題だと?ヒントも無いのにか?」
「いや、それは課題ではないだろう」
…などという状況で、結局は課題そのものが見つからなかったのである。
もっとも、有る可能性が低いと言うことは無い可能性の方が高いのだが、それ以外にやることも無いので自然と全員が『有る』事を前提として探し回っているのだ。
「しかし…」
紅茶をすすりながらティエリアが呟く。
「我々をこの空間に送り込んだ者は、一体何が目的なんだ?」
「誰かのイタズラじゃないのか」
「イタズラのためだけに僕たちを機器の元へと運ぶのか?成人男性四人を運ぶのは中々の重労働だろう」
「…それもそうか」
トレミークルーの中でイタズラをやりかねないのはやはりスメラギだろう。だが、彼女は体力的には普通の女性であって、自分たちを運ぶのは無理だろう。となればラッセ辺りに協力を仰ぐ必要があるが、彼が同意するとも思えない。沙慈は絶対にしないだろうし。イアンもこう言うところはあまり同意しないだろうし。
となれば、イタズラという線は消しても良いのだろうか。
思いながら刹那は心の中でその案を否定した。そうするにも情報が足りない。どうしようも出来ないという現状に歯がみしたい気分を抱くが、どうしようもなく。
「でもよ、イタズラってのもあながち間違いじゃないと思うぜ?」
「あ?何か方法でも思いつくのかテメェ」
「別にちゃんと連れてくる必要は無いだろ?」
「…えっと?」
「引き摺ってくるとか、台車に乗せるとか」
……あぁ、有り得そうな気がする。
後者は台車が無かった気がするからともかくとして、引き摺るくらいならどうにかなるかもしれない、女性だけでも。あるいは、ハロに引き摺らせるというのも手かも知れない。一つ二つでは無理でも、五つくらいで纏めてきたら自分たちも案外簡単に引き摺られるのではないだろうか。
実際にそうだった場合を考えると、結構な悲劇が待っている気がするのだが。
引き摺られて、本体が無事であるわけがないのだ。
それは全員が思い至ったらしい。言い出したライルですら何ともいえない顔をしている。
いっそしばらく仮想なら現実に戻らない方が良いのではないか。そんなことを思っていると、ふいに聞こえてくる慌ただしい足音。
何だろうかと顔を上げると、その時に丁度、食堂に走り込んでくる影があった。
茶色のやや長い癖毛を襟首の辺りで結んでいる、あの生徒四人組の一人。
彼らの兄貴格の、ケルディム。
「悪い!こっちにダブルオーとセラヴィー来てないか!?」
「いないが…何かあったのか?」
「見つからないんだよ、アイツら」
「…え?」
アレルヤが眉を寄せて聞き返すと、ケルディムはゆっくりと自分にも確認させるように言葉を紡いだ。
「放課後から姿が見えなかったんだけどな、直ぐに帰ってくると思ってアリオスと一緒に寮に戻ってたんだけどな……この時間になっても帰ってこないんだよ」
「誘拐でもされたんじゃねぇのか?」
ハレルヤのその言葉は、彼にしては珍しく他人事であるというのに冗談交じりでも何でもなかった。真剣に、本気でその可能性を危惧しているようだった。
刹那も、同じ気持ちだった。
何故なら、この施設にはそれをやらかしそうな人物がいるのである。
がた、と音を立てて席を立ち、刹那は口を開いた。
「武士仮面の所に、行くぞ」
だって怪しいよね武士仮面…。