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軍の基地に、予防注射ってありますかね?
……体調管理とかで。
03.免疫
それは、とある冬の日の話だった。
セルゲイに連れられて医務室に行くと、そこにはたくさんの軍人たちがいて、注射をされるのを待っていて。
それが、ソーマには驚きだった。
彼女にとって注射と言えば、あの施設での研究中にされるものの一つ。自己の意思に関係なく繰り返される日常。自分という存在を造り出すための課程の一端。
まさか超兵でもない人たちが、そういった目的でこの行為を受けに来るはずもなく、ましてやこれが彼らの日常であるわけでもなく。では何を、何のためにしているのか。それが酷く不思議に思えた。
……が、とりあえず訊くことはせず、上司に言われたように列の最後尾に並ぶ。
ゆっくりと進む列。注射をされては部屋から出て行く大人。
「……すみません。これは一体、何なのですか?」
列の半分あたりに差し掛かったところで、ソーマは前に立っていた男性に声をかけた。ちなみにセルゲイはいない。彼女をここに連れてきた後、すぐに仕事があるからと言ってどこかへ言ってしまった。彼は上司からの信頼も厚く、毎日忙しそうにしている大変な人なのだ。
「何って……予防接種だよ」
「予防接種?それは……」
どういうものなのだろう。
首をかしげていると、男性は呆れの表情を浮かべながらも口を開いた。
「風邪を引かないために、体に免疫を付けるんだよ。そのための手段がコレだ」
「ということは、あの注射器の中にある薬品は……そういう目的のための?」
「そうだ。っていうか、どうしてこんな一般常識を…」
知らないのか、とでも言おうとしたのだろうか。
しかし男性はハッとした表情になり、口をつぐんで複雑な顔になった。
恐らく、ソーマが『どういう存在』かを思い出したのだろう。どういう場所にいて、どういう大人が周りにいて、どういう目的で生まれたか。
「……悪いな。お前は知らないこともあるだろうに」
「気になさらないでください」
彼が謝るようなことではない。あの場所ではそういう知識が必要なかっただけの話。ここではむしろ、知らなかった自分の方に責任がある。居場所をこちらに移したのだから、こちらの流儀、常識、環境に合わせるのはソーマの義務である。
ふと見れば、自分たちは列の三分の一のあたりまで来ていた。
「予防接種というのは、受ければ風邪を引かないということでしょうか?」
「あー、いや、引く可能性が減るってだけ。それでも、受けないよりはいいだろ」
「それもそうですね」
可能性が一%でも違えば、それは大きな差になる。
これは推測だが、多分、予防接種というのはある程度の成果を出しているのではないだろうか。だからこそ、ここまでたくさんの人々が集まった。
皆、職務を忠実に果たすには、体の健康を守るのが第一だと知っているのだろう。それでこその、この行動。
「そういやさ、予防接種は知らないのに、どうして風邪は知ってんだ?」
「中佐に教えてもらいました」
「中佐?……あぁ、セルゲイ中佐か」
「はい。他にも色々と教えてもらっています」
けれども、こちらで生活するには、どうやらその知識だけでは足りないようだ。今はもっと、多くの情報が欲しい。
……自分の番は、あともう少し。
だけれどその前に、今話している彼の番がある。
「私に予防接種が必要かどうかは、甚だ疑問ですが……受けても損は無さそうです」
「疑問て……」
「免疫能力も、強化してあります」
「お前な、そういうこと言うなよ」
前には、彼を含めてあと五人。
「それはどういう?」
「強化してあるとか、普通に言うなって事」
四人。
「何故?」
「何故って……分かれよな」
三人。
「分かりません」
「考えろって」
二人。
「……本当に、教えてくれませんか?」
「あぁ、はいはい。つまりな……」
一人。
「そうやって、自分は『普通じゃない』って言うの、止めろって事。お前、別に俺たちと違うところ無いだろ?なのにそれじゃ、違うみたいじゃないか」
そして、目の前には誰もいなくなった。
ソーマの番になって、注射を受けながら考える。
自分は、彼らと違わないと言われた。だけれどそれは、普通に考えると違う。なぜなら、ソーマは超兵で、彼らは普通の兵隊なのだから。
けれども、名前も知らない彼は『違わない』と言う。
ワケが、分からなかった。
だけれど、どうしてだろうか。
彼の言葉を思い出す度に、胸の辺りがほんのちょっとだけ……暖かくなるのだけれど。
超兵ズは、世間知らずだと信じて疑わない。
けれど、ハレルヤは例外ね。アレルヤ守るために色々勉強してるの!
……痛い妄想ごめんなさい。