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ということでこの話でこのシリーズは終了です。
突発的仮想物語 了
朝。
起きてみて、刹那は不思議な違和感に襲われた。
別に、変なところはどこにもない。いきなり知らない天井が目に入ったりと言うことはないし、妙な設定が頭の中に入っているわけでもないし、引き摺られた跡も全く見あたらない。いつも通りの、トレミーでの朝だ。
そこまで思い、訝しさに眉を寄せる。
…何だろう、引き摺られた跡、というのは。
どうしてそんな事が妙でない理由の中に入っているのか。知らない天井というのはまだ分かるのだが、そういえば妙な設定というのも少しおかしい。
何か、変な夢でも見たのだろうか。
起き上がり、椅子にかけてあったCBの制服を取って部屋を出る。
意外と、早くに起きてしまったらしい。おかげで誰も起きていないし、朝食を取るにしても早い時間になってしまった。となれば、部屋でじっとしているか……あるいは、愛機を見に行くくらいしかすることはない。もっとも、ガンダムを見に行くというのは自分くらいのもので、普通は自室待機だろうが。
まぁ、別に悪いことではないのだから問題はないだろう。
そう結論づけて、刹那はいつの間にか前まで来ていた格納庫のドアを開いた。
何気なしに。
そうして。
「……」
見えた青と橙に、妙な既視感を覚えた。
…妙な、これこそ妙な話だ。いつも見ている物に対して『既視感』とは一体どういう事だろう。今まで一度もこのようなことは無かったというのに。
首を傾げながら、刹那はダブルオーの傍へと寄った。
「…俺の中で何か、あったのか?」
呟きを声にして出して、ダブルオーの外装に触れてみても、やはりというべきか思い出すこと、思いつくことは何一つ無い。
それでも何かあったのだろうと、確信はあったのだが。
しかし確信があったところで何があったのかが分からなければどうしようもない。
「…ケルディムとセラヴィーの所にも行ってみるか…?」
もしかしたら、そうすることで何かを思い出すかも知れない。
見込みは薄いだろうなと思いながらもくるりと足の向きを反転させ…何を思ったか、自分でも分からないままにもう一度振り返る。
当然、そうすれば青と橙が見える。
ただし。
今回は、橙がもう一つ。
直ぐに消えてしまったその橙色の髪を確かに視認した刹那は、す、と瞳を閉じた。
「……そう、か」
思い出した。昨日の『夢』のこと。
成る程、どうりで既視感を覚えるわけだ。
少しばかり笑んで、刹那は二機のガンダムを見上げた。
「俺は、忘れない」
宣言するように言ったその言葉に、答えはない。
それはそうだろうと思いながら、しかしそのことに対する失望はない。彼らは恐らく『そういう存在』なのだろう。それが姿を現すのは何らかのけじめが付いたときか、あるいは昨夜のような形式を取ってこそなのだ。
ふ、と笑って、刹那は背を向けた。
「一つ忠告するが」
こつこつと床を靴が叩く音を聞きながら、格納庫の出入り口へ向かう。
「消えるのならもっと早いタイミングで消えた方が良い」
気付かれるぞ、と。
そう言って顔だけを後ろに向け、思わず呆れた。
嬉しくないと言えば嘘になるが…それで良いのか。
現れた二つの影の、内橙の髪を持つその者が、良いのだと静かに微笑んだ。
「刹那、ありがとう」
「…感謝する」
もう一つの影もそう言って、そして。
そして、その姿は瞬きをする間に消えていた。
見間違えとも、勘違いとも、幻覚とも捉えることが出来るような短い間の邂逅。けれども、刹那はその記憶を疑うことはしまいと決めた。
代わりに思うのは、ケルディムとセラヴィーに会いに行こうかと言うこと。
あの二人は、姿を簡単には現してくれないだろうが。
挨拶をしてやったらどんな顔をするかと、それが読み取れないのだけが残念だと思った。
つまりマイスターと機体が仲良かった良いなぁと思い続けていた私の願いを具現してしまった話でした。
おつきあい、ありがとうございました。