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ミルフィもそのうちちゃんと書きたいかもしれない。
064:切先(きっさき)
「頼むからそんな物騒な物を向けないで欲しい」
「……」
「ウチが信用できないのは分かるけど、それを向けられるほどの事をした覚えもないし」
だから、と続けると、相手はどこか呆れたような表情を浮かべて剣を納めた。
その後も立ち去らない彼に、スパナはちらりと視線を向ける。
「どうかした?」
「…どうしてそこまで平然としている」
「…?」
「剣を向けられたのだぞ、もっと慌てても良いだろう」
「……あー、そういうこと」
つまり、命の危険にあったのだからもう少しくらい狼狽してみろと、そう言いたいワケなのか。多分彼の言い分はもっともなのだろうが、しかし自分からしてみれば、現状においてのそれは非常に意味のないことだ。
棒付きキャンディーの袋を空けながら、背後に立つ彼の顔を見ずに答える。見ても見なくても答えられるのだから、見なくても問題ないだろう。
「別に、ウチは何もしてないから」
「…」
「正一と仲良くしてる新参者を疑うのは分かるけど、ウチが裏切る理由はどこにもない」
そのくらい、背後の相手ならば分かっているはずだと踏んだのである。
実際そうだったし、とキャンディーを舐めながら思う。
これはつまり、牽制か何かなのだ。正一、という白蘭に近い人間と親しい、新しく入った相手に対する。一つ一つ『芽』は摘んでおこうとでも思ったのだろう。何て凄い忠誠心だろうか。これだけ大きい組織なのにそんな行動をするなんて。絶対に自分には真似できない。そもそもする気がないのだけど。
「まだ疑う?」
「いや…疑うのもバカらしいと分かった。少なくとも今は」
「正しい認識だな。じゃあ、お近づきの印に」
くるりと振り返って、まだ未開封の棒付きキャンディーを差し出す。
どこか困惑した様子の相手に、続けて言う。
「これからよろしく…えっと……あぁ、そう、幻騎士」
誰相手でも気にしないだろうなぁ…この人は。