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平和島兄弟のお話。シリアスなんだか何だか。
帰ってきた兄の姿は、それはもう酷い物だった。
来ていた白いシャツはボロボロで、破れたというよりも切り裂かれたと言うような状況だと思った。その想像を裏付けるかのように、破れたシャツの下には赤い線を刻まれた兄の皮膚が見える。
いつもより多く、また、一つ一つが深そうに見えるその切り傷に幽は眉を寄せる。
その事実は、たったひとつの事実しか与えなかった。
「……また、折原さん?」
玄関で靴を脱ぐ静雄を眺めながら、幽はそう問いかけた。もっとも……この問いの答えなんて分かり切っていたのだけれど。
「……まぁな」
案の定、兄の返答は苛立ち混じりだった。
足音も荒々しく廊下を歩く兄の後ろをついて歩きながら、幽は心の中でため息を吐いた。
全く、あの折原臨也という人は、一体どうして兄を放っておいてくれないのだろう。自分の兄は暴力が嫌いで静かに平和に暮らしたくて、けれどもそれが出来ない事に誰よりも傷ついているというのに。
今はそれのせいで心の中の傷を思い出し続けているだけだから、これでも結構嫌ではあるのだけれど……まだ、もしかしたらマシな方かもしれない。
ただ、あの人の行動はその傷を抉りかねないのだ。
そのうち、あの人はそれを実行するのかもしれない。
出来るならそれは避けなければならいのだと思いながら、幽はリビングへと静雄に続いて足を踏み入れた。
「兄さん、牛乳飲む?」
「……おう」
「じゃあ、ソファーに座ってて。持ってくる」
「悪いな」
「このくらい別に」
兄がソファーに座ったのを確認して、冷蔵庫の方に向かう。
自分の記憶が正しかったら、瓶の牛乳がまだ三本くらい残っていたはず。一本を今出しても明日の朝の分は残っているだろうから大丈夫だ。それでもあと一本程残るわけだけれど、それは予備と言う事で置いておけば良い。
そんな事を思いながら冷蔵庫を開けると、ピッタリ三本の瓶があった。
適当にその中から一本を選びとって、くるりと背後に体ごと視線を向ける。
「……あれ」
そうして目に入ってきた光景に、家族くらいしか気付けないほど少しだけ、目を見開く。
「……兄さん、苛ついてるよね」
「ん?……あぁ、あのノミ蟲の事を思い出しちまってよ……」
「で、その手にあるリモコンは?」
「テレビ見ようと思って」
「……何で壊れてないの」
「は?……あ」
言われてその異常さに気が付いたらしい。静雄は目を丸くした。
仮に兄が苛付いていて、なおかつその時手に何かを持っていたら、その何かは間違いなく壊れる。これは殆ど確定事項。
しかし、現在、そんな様子が全くない。
……そうなると、赤い線たちの事も少し気になってくる。
だって、良く考えれば最初に感じた『深い』という傷の印象なんて、そもそも感じられるようなものではない。それでもそうだと感じたのは、ひとえに流れ出ている血の量が多……否、普通の量だったから。
「もしかして、今の兄さんは普通の力しかないとか」
「そんなバカな……って……ちょっと待て」
「心当たり、あるの?」
「確か、ノミ蟲のヤツと新羅が昼休みに取引?みてぇなのやってた」
「じゃあそれじゃない?兄さんの力を普通の人程度にする薬を貰ってた、とか」
「かもしれねぇな……」
そう呟く静雄の表情は何とも言えなそうな物だった。
知らない内に薬を使われていたかもしれない事を怒れば良いのか、今だけでも異常な力が無くなった事を喜べばいいのか。どちらが良いのか悩んでいるのだろう。
何となく、その事実が悲しかった。
そんな感情を振り払うように、幽は口を開く。
「もし良かったら、今度俺が確かめてこようか?」
「いや、お前を使いに出す必要はねぇよ。訊く時は俺が訊く……どうせ毎日顔を合わせてんだしな」
「……ねぇ、兄さんは」
もしもそんな薬があったら、まだ欲しい?
なんて、そんな事を訊こうとしたけれど、止めた。
言ったらまた悲しい感情が帰ってくる気がしたから。
「早めに折原さんと縁を切るべきだと思う」
「そうだな……そのためには、とっととあのノミ蟲潰さねぇと」
だから代わりに言った言葉に、兄は決意を新たにしたようだった。
どうやら今の言葉が誤魔化しだと言う事に気付かれなかったらしいと分かり、幽は、ほんの僅かだけ、ホッとした。
お兄さんが心配な弟のお話。
平和島兄弟はひたすら仲良しだったらいいよねとか思いつつ。
ちなみに、臨也と新羅の取引はまた後日、ちょっとだけ。
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