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日輪学院二年生sのお話。最近暑いですよね。
「近年まれにみる暑さとか言うだろ?いや、それがある事に文句を言いたいわけじゃねぇけど、よりによってこんな日に当たらなくても良いとは思うよな」
「思うからゆっくりそこで休んでいなよ、政宗君」
「……っち」
不機嫌そのものを顔に浮かべて、北国出身の同級生は一回舌打ちをして黙り込んだ。
呆れながらも木陰で膝を抱えて座るそんな彼を見て、半兵衛はグランドへと再び視線を移した。そこでは慶次や幸村、小太朗といった他のクラスメイト達がサッカーボールを追って走り回っている。
正直、よくもまぁあそこまで元気いっぱいに動けるものだと思う。いや、元気いっぱいに動こうと思えるものだ……という方が心情的には正しいだろうか。
残念ながら自分はあんな自殺行為を行う気にはなれなかった。たとえ体育の授業中であろうと何だろうと、この炎天下では、絶対に。
そういうわけなので半ば強引にチームの補欠の座に収まり、こうして木陰で涼みつつ見学者と一緒に走り回り汗を散らす、今まさに青春していると言えばしているのかもしれないメンバーを眺めているのだった。
ちなみに見学者が見学に回った理由はドクターならぬティーチャーストップがかかったからである。それがかかった時には確かに倒れそうな顔だったので、あれはただし判断だったと今も思う。
もっとも、彼は納得してるわけではないようだけども。
「しかしねぇ……君は何でこんな場所に入学したのかな」
「Ah?どういう事だ?」
「君はここよりずっと北の方の出身だろう?それがどうしてわざわざこんな場所まで南下して来たんだろうと思ってね」
「南下ってお前、他に言い様はなかったのかよ」
「間違ってはいないんだから良いじゃないか」
「そりゃそうだけどな……」
「で、僕の問いに対する返答は?」
「……家から離れたかったんだよ」
促すと、渋々と言った態で返される言葉。
成程?と、その言葉に納得を示しながら続ける。
「一人暮らしを始めるにしては妥当な理由だね。離れ過ぎな気もするけれど」
「このくらい離れねぇと母上たちが休みごとに押しかけて来るぜ?」
「……過保護?」
「っつーか、教育ママってやつだな」
肩をすくめながら、若干嫌そうな表情で彼は言った。
そんな彼の様子を、半兵衛は理解と共に見やった。彼の言った事は、家から離れたいと言う言葉に対する素晴らし過ぎる意味付けだ。
そう言う事ならば高校に行く事はやむなしとしても、かなり離れなければ一人暮らしの意味はない。新居を実家から近い場所に置けば彼の言う通り、母親はたびたび訪れては世話を焼きつつ勉強の状況などを細かく訊いてくるに違いない。
これは想像であり現実とはいくらか違う可能性があったが、恐らく殆ど間違ってはいないだろうと思った。その推測の根拠を示す場合、今、政宗が浮かべている憂鬱の中の、鬱陶しいけれど迷惑と切り捨て切る事も出来ず、困って困って仕方が無いと言わんばかりの感情が挙げられるだろう。
彼も苦労しているのかもしれない、なんて考えつつ、半兵衛は明るい大地の上を転がるボールを目で追って。
「……あ、真田君が倒れた」
「は!?」
「ほら、あそこ」
驚きの声を上げたクラスメイトにも分かるように、ぺたんと熱いグランドにうつ伏せに倒れている赤ハチマキの方を指さす。見れば全身から湯気まで出ているようで、彼の中身は随分と暖かい事になっているようだった。
思わず腕を組み、うんうんと頷く。
「さもありなん、だね。水分補給もせずにあぁも走り回っていたら誰でも倒れるよ。休憩を取ろうとも補欠である僕と交代しようともせずに外に居続けた結果かな」
「冷静に分析してる暇があんなら拾いに行けよ!あと補欠云々はお前のせいだ!」
「嫌だよ。補欠の話がたとえ僕のせいだったとしても、一体どうして僕が拾いに行く必要があるんだい?それに、僕が一人だけ行ったところで運べるわけ無いじゃないか」
「……どういう意味だよ」
腰を浮かしかけた政宗は不可解そうに問い、それに対する答えとして半兵衛は『そちら』を顎でしゃくった。
「ああいう事」
そこには幸村の隣で倒れている慶次の姿があった。そちらもそちらで湯気製造機になっていて……だから補欠と代わればよかったのに。慶次の方に変われと言われたって、何が何でも了承しなかっただろうとは思うが。
二人目の倒れ人を目にして唖然としている政宗の肩をぽんと叩いて、のんびりと形容されそうなほどにゆっくりと立ち上がる。
「仕方が無いから真田君を運ぶよう風魔君に頼んであげるよ。前田慶次は君の方でどうにかしてくれるかい?」
「OK……って言いたい所だが、そいつは無理だぜ、半兵衛」
「ふぅん……どうしてだい?」
「小太郎も倒れた」
小太は表情が読めなさそうなので、はたから見ていると急にバタン、って感じだと思います。
ちなみにタイトルの「ゆきだおれ」の「ゆき=幸=幸村」です。
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