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ゼータさんとメタスさんのお話。でもゼータは一言もしゃべらない。



「ゼータ、料理部の活動終わったよー……って」
 図書室にて。
 メタスの部活動が終わるまで、そこで待っていると言っていたゼータは確かにそこにいた、のだけれども。
「声、聞こえてないよね……」
 本の世界にずっぷりと入ってしまっている幼馴染は、どうやら自分の到着にさえ気が付いていないようだった。
 どうしようかと本気で悩む。彼が読書好きなのは良く知っているし、集中しだすと周りが目の入らない事も知っている。そして、本の世界に浸っている彼を現実に引っ張り戻すのはとても難しいのだと言う事も同様に、知っている。
 ハッキリ言うと現状は、万事休す、とかいうやつなのだった。
 ……本当にどうしよう。
 こう言う時は、本を取り上げればいいとは思う。思うけれど、こう言う時の彫像のように動かない彼の手は、それこそ本も含めて一つの個体であるかのように、それを放さないのである。この間はマークⅡとプラスの二人がかりで引っ張っても取れなかったくらいだ。それを自分一人でどうにかすると言うのは無茶でも無謀でも無く、意味無し、だ。
 では、本の上に両手を置いてみたらどうだろう。……というのも、既に実行済み。結果は避けられ続けて根負けして終了。
 ゼータ本人を狙うと言うのも手だが、これこそ無意味なのだった。背中から抱きついてみても、腕を動かそうとしても、本当に動かないのである。ちなみに目を覆ってしまおうとしたら逃げられる。これはどうやら、彼にとってはページを隠すのと同じ意味合いを持ってるらしい。まぁ、どっちも見えなくなるという点で確かに一緒なわけだけど。
 というわけで。
「……仕方ないなぁ」
 打つ手が一つもないメタスは息を吐いて、ゼータの向かいの席に座った。
 多分、この本を読み終われば我に返ってくれる……はずだ。傍に続編らしい本も次に読もうと思っているような本もない様だし、次の本にシフトする事はないはず。だから、読み終わった瞬間……そこが狙い目になる。
 見ればページもあと僅か。多くて二十頁程度。これならしばらく待つだけでどうにかまるかもしれない。
 ただまぁ、その『しばらく』がどれ程なのかが問題であり。
「……出来るだけ早く終わりますように」
 割と心の底からの、それは祈りだった。






で、読み終わるのは三十分後とか。
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